INDEX
非北米圏のローカリティーに根ざした作品の豊かさ
―ベストで共通していたのが『私たちが光と想うすべて』『アイム・スティル・ヒア』『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』あたりですね。
木津:アメリカ映画がさまざまな意味で弱っている現状で、世界の多様な映画を見ることの豊かさがより広く受け止められているように感じます。ブラジルの軍事政権下の状況を描いた『アイム・スティル・ヒア』(ウォルター・サレス監督)や、インドのムンバイの街をみずみずしく映した『私たちが光と想うすべて』(パヤル・カパーリヤー監督)のように、ローカリティーに根ざした物語、表現が、そのまま世界で共有されている状況は非常に健全だと思います。


長内:背景を知らないと理解しきれない部分があるからこそ、想像力を働かせる時間が豊かなんですよね。『私たちが光と想うすべて』は、並行して上映された前作『何も知らない夜』(2021年)が作品を観る上での補助線になりました。2本を観ることでつながる、素晴らしい体験だったなと思います。
北米の賞レースでも、NEONなどの配給会社が外国語映画を強力にプッシュしていて、「アカデミー賞作品賞」の半分が非英語圏の映画になる勢いです。
木津:ローカリティーということでいうと、思い出深いものとして、ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督による『DREAMS』『LOVE』『SEX』の「オスロ、3つの愛の風景」もあります。オスロの街の空気がすごく伝わってくると同時に、この3本はセクシュアリティとジェンダーの曖昧な領域を鮮やかに描いていました。
現在、クィア映画はどんどん進化していて、「アイデンティティ・ポリティクスとして大事なんですよ」というだけではない、複雑な問題・領域までを見すえた映画が次々に作られている。そして、ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督という60代のゲイの映画作家がノルウェーから登場して高く評価されるという点でも、ジェンダーやセクシュアリティのテーマというのは、映画においてまだまだ探求できるポイントだと思いました。『アフター・ザ・ハント』もそうですが、映画は現実の政治よりも一歩先を進んでいる感じがします。
長内:ただ、現実より先に進んでいると感じられる作家も限られた一部ですよね。北米発の作品からは停滞も感じます。一方で、先日ジョン・ウォーターズが年間ベストを発表していましたが、「オスロ、3つの愛の風景」を3位に挙げていましたね。あとアラン・ギロディの『ミゼルコルディア』も7位に入れていて、すごく「木津毅っぽいランキングだな」って思いましたよ(笑)。
木津:そうなんだ、嬉しいです(笑)。ジョン・ウォーターズは、クィアカルチャーの守護神なので。アメリカの表現、カルチャーが生真面目になると、ラディカルな表現の先駆者として、再評価されて話題に上ってくるんですよ。
クィア映画は、映画がラディカルな表現を志す上で、今でも重要な磁場になっています。そこに自分は希望を持ちたいと思っていますね。