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賛否両論を呼んだ『アフター・ザ・ハント』と『エディントンへようこそ』
―上半期の対談では、木津さんはA24作品に注目されていましたが、実際にいかがでしたか?
木津:『テレビの中に入りたい』(ジェーン・シェーンブルン監督)や『顔を捨てた男』(アーロン・シンバーグ監督)などは、A24ブランドとして通好みな作品でありながら、日本の観客にもしっかりと届いていた印象です。少し変わった映画を見たいならA24という認識が完全に定着しましたね。アメリカで賛否両論だった『エディントンへようこそ』(アリ・アスター監督)みたいな、冷静に考えると一般向けとは言い難い作品が日本で話題になるのも、ブランドが信頼されている証拠ですよね。


長内:毎月24日の「A24の日」の再上映イベントも盛り上がっていますし、12月には未公開4作品から投票で上映作を決める試みもありました。ブランド化も定着しましたよね。
また、A24に限らずボディホラーの話題作が多くなっていることが気になります。『顔を捨てた男』『テレビの中に入りたい』のほか、上期の『サブスタンス』(コラリー・ファルジャ監督)や、2026年1月に公開の『TOGETHER トゥギャザー』(デイヴ・フランコ監督)などですね。なぜ今、自分の体が損なわれる恐怖を描くボディホラーが同時多発的に製作されているのか。
木津:デヴィッド・クローネンバーグやデヴィッド・リンチを好むような、映画オタク的な嗜好が今のA24周りの観客と合致しているのが一因かなと思っています。
長内:それもあるかもしれないですね。さらに言うと、現在のように現代劇が作りにくい時代において、世の中に対する不安を個人の一番身近なところ——つまり自分の身体との関係に投影しているのかもしれないと思っているんですよね。
―たしかにアイデンティティ・ポリティクスの時期から、現代劇が作りづらいと言われますよね。
木津:僕がポジティブに受け止めているのは、『エディントンへようこそ』や『アフター・ザ・ハント』(ルカ・グァダニーノ監督)のように、海外で賛否が起こった作品の存在。これは映画作家が、現代の議論がわかれる複雑な問題に対して向き合っている証拠だと思うんです。4、5年前よりも、映画を通して多様で複雑な視点を発見する機会が増えている気がします。現代の作家たちがそこに果敢に挑んでいる。

長内:現代劇が作りにくい状況下でも、限られた作家たちは挑戦的な作品を世に出していますよね。その2作品は、下半期の重要な収穫だと思います。
『アフター・ザ・ハント』は見たばかりですが、グァダニーノの旺盛な創作意欲に驚きました。上半期の『クィア』が極めて情熱的で前のめりだったのに対し、今回は全く違う手触りです。この5年ほどの社会の動きを、冷静に、かつ脚本の力を活かして描いています。脚本も素晴らしいですね。
木津:脚本を手がけたのはノラ・ギャレット。「ブラックリスト(製作前の優秀脚本リスト)」に載っていた無名の新人だそうです。海外の一部では「アンチフェミニズム映画」という安易なレッテルを貼る向きもあったようですが、実際に作品を見れば、Me Too運動が抱える複雑な側面を真摯に描いていることがわかります。グァダニーノがそうした政治的・社会的に入り組んだ現代の問題に挑んだことは、映画の持つ「現代に向き合う力」を再認識させてくれました。グァダニーノのように、ヨーロッパにルーツを持つ監督だと、アメリカを客体化して描けるのが面白いです。