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ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は問う。アップデートはキリがない、それでも……

2025.12.9

#MOVIE

©TBSスパークル / TBS
©TBSスパークル / TBS

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)がいよいよ最終回を迎える。

第7話でTVerとTBS FREEでの無料配信再生数がTBS全番組の歴代1位(※TVer DATA MARKETINGにて算出【各話配信開始から8日間の再生数】)を記録するなど、多くの注目を集め続けてきた、通称「あんたが」。

最終回直前の第9話では、鮎美(夏帆)と勝男(竹内涼真)の前に大きな壁が立ちはだかる。

二人がヨリを戻すかどうかも気になる本作について、前半を振り返った記事に続いて、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

自分の中の「当たり前」を見つめ直す鮎美と勝男たち

誰かに合わせるためではなく、自らの意志で茶髪に染めた鮎美©TBSスパークル / TBS
誰かに合わせるためではなく、自らの意志で茶髪に染めた鮎美©TBSスパークル / TBS

この冬の注目作『じゃあ、あんたが作ってみろよ』がいよいよ最終回を迎える。旧時代的な「男性らしさ」が充満していた勝男(竹内涼真)は、恋人・鮎美(夏帆)へのプロポーズ失敗を機に、料理を通じて、自分の中の「当たり前」を見つめ直す。かつて「化石男」と揶揄されていた勝男は、さまざまな人たちと対話をしていくうちに、自らの価値観を形成した両親や兄も「こうあるべき」に縛られていることに気づく。ときには真正面から熱くぶつかり、ときにはそっと見守りながら、上の世代の人々が抱える悩みにも寄り添っていった姿が印象的だった。

従来の「女らしさ」に縛られ、主体性がなかった鮎美も、さまざまな出会いと別れを繰り返す中で、見失っていた自分らしさを少しずつ取り戻してゆく。誰かに合わせるためではなく、自らの意志で染めた茶髪の鮎美は、それまでよりもずっと軽やかに映るのだ。

原作とドラマで異なる、見る鮎美と勝男の関係

原作に比べても顔を合わせる場面が多い鮎美と勝男©TBSスパークル / TBS
原作に比べても顔を合わせる場面が多い鮎美と勝男©TBSスパークル / TBS

本作前半について書いた記事では、原作の精神を感じたドラマオリジナルのシーンと、逆にドラマでは描かれなかった原作のとあるシーンについて触れたが、あらためて両者を見比べると、ドラマ版『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、原作以上に、鮎美と勝男が顔を合わせる場面が多いことに気づく。

現在刊行中の第3巻(※第4巻は12月10日発売予定)までは、鮎美と勝男がエンカウントする回数は驚くほど少ない。プロポーズ失敗後、二人が初めて顔を合わせるのは第3話。勝男がもつ焼きの美味しさに目覚めた店に、「宇宙人のような髪色」に染めた鮎美と見知らぬ男性(渚の夫・太平)が現れる。その後、次に二人が交わるのは、図書館で偶然に鉢合わせた第14話。しかし、その時も、お互いに話したいことはあったものの大して話ができず、気まずさを残したまま別れてしまう。

つまり、原作では、勝男が食べ飽きた筑前煮をカレーにリメイクするときも、鷹広兄さんにサックサクのとり天を届けるときも、地元の結婚式に出席するときも、鮎美はいない。もちろん、元カレ・勝男と今カレ・ミナトが対峙するシーンもない。原作の二人は、それぞれのコミュニティの中で出会った人々から影響を受け、勝男は鮎美のいない日常で、鮎美との思い出を反芻するのだ。

一方のドラマ版では、勝男がハマっているトレンディードラマ『フォーエバーラブは東京で』さながら、二人は何度も顔をあわせる。料理上手な鮎美が勝男にアドバイスする場面も多い。アップデート中の勝男の変化に鮎美がエンパワーメントされることもあれば、鮎美の本質に触れた勝男が気づきを得ることもある。当人同士だけでなく、白崎(前原瑞樹)と南川(杏花)とミナト(青木柚)のように、勝男を取り巻く人物と、鮎美を取り巻く人物が同じ空間に居合わせ、気づけば、共通の知り合いになることも多発した。ドラマ版は、鮎美と勝男が互いに影響を与えながら、「ふたりでの」再生物語として進んでいる印象だ。

二人がヨリを戻すかどうかはまだわからない。だが、勝男が本当に手に入れたいものは、「無理」「勝男さんにはわからないと思う」「勝男さんにはわからないし、わかってほしいとももう思わないかな」の連続コンボで一旦は幕を引いた鮎美との「真のコミュニケーション」なのかもしれない。

深いコミュニケーションへ踏み出すための「料理」

「鮎美に料理を食べてほしい」が達成された先で勝男がしたかったこと©TBSスパークル / TBS
「鮎美に料理を食べてほしい」が達成された先で勝男がしたかったこと©TBSスパークル / TBS

鮎美にフラれたことで台所に立つようになった勝男だが、彼の変遷をたどると、調理は鮎美への贖罪だけではないことがわかる。あるときは「鮎美に料理を食べてほしい」という目標にもなり、あるときは自分を癒すための手段にもなる。そして、それまで避けてきた深いコミュニケーションへ踏み出すためのきっかけにもなるのだ。

顕著なのが、鷹広兄さん(塚本高史)のためにとり天を作る第5話。兄の様子がおかしいことに気づいたものの、話をうまく切り出せなかった勝男は、兄とともに立ち寄った九州居酒屋で食べ損ねたとり天の自作に奮闘する。途中、「とり天作ったからって、どうにかなる話じゃないんだよ」と勝男自身も呟いていた通り、兄にとり天を食べさせること自体が目的だったわけではない。とり天はあくまで口実で、その後、「兄さんが心配なんだ」「一人で悩まれているのが寂しい」と語ったように、悩みを抱える兄に寄り添いたかったのだ。

さらに第6話では、友人の椿(中条あやみ)宅でのホームパーティー帰りの勝男と婚活パーティー帰りの鮎美が、たまたま図書館で遭遇する。パーティーで食事にありつけず、お腹を空かせて立ちくらみを起こした鮎美に、勝男はホームパーティーのために手作りしてきた小籠包を「これ食べる?」と差し出す。

ここで勝男の調理をはじめた当初の目的だった「鮎美に料理を食べてほしい」は達成されるのだが、もし勝男の中で「料理が作れるようになった自分を鮎美に認めてほしい」が最優先事項だったならば、料理本来のポテンシャルを発揮しきれない冷めた小籠包は出さないはずだ(食べ方に口を出していたが、あくまでもあれは美味しく食べてほしいという勝男の善意だと思う)。

つまり、この時点で、小籠包の美味しさは勝男の中で二の次になっている。勝男がしたかったのは、小籠包入りの蒸籠を囲んで、鮎美が今なにをしていて、どんなふうに生きているのか、どんなことを考えているのかを聞く「対話」だったのではないだろうか。

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