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「達者じゃなくても、それでもいいじゃん」と思えた
─ミュージカル『ジャニス』の通しリハーサルでセリフも全部飛んで、全く歌えなかったという場面の描写はものすごい緊張感が伝わってきました。映画『キリエのうた』の撮影時期とも重なっていたという過酷なスケジュールのなかで、当時のアイナさんと同年齢である27歳で亡くなったジャニス・ジョプリンを体現するのは相当過酷だったと思います。ジャニスという役に自分の肉体と精神を預けることで自分も死に対して近づくような怖さもあったのではないかとすら想像するのですが。
アイナ:あの時代のロックスターたちのセックス、ドラッグ、ロックンロールという美学のなかで、結局、今の私にはセックスしか理解できないじゃないですか。そう思ったときに私にはまだ死はわからないなと思ったんですよね。
自分が25歳くらいの時に27クラブ(ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソン、カート・コバーンなど27歳で亡くなったアーティストたちを指す言葉)に憧れて飛び降りてしまった友だちがいて。そこに憧れる気持ちはわかります。だけど、やっぱり自分は違うし、ドラッグとロックンロールがわからなくてよかったと、本当にそう思います。
─このエッセイでは、最後にまたあの喫茶店に戻ります。あの時はどんなことを思いましたか。
アイナ:自分で思っていたよりも何のロマンチックな感情もなく、本当にただただ喫茶店で夕方を過ごしたんですよ。それがすべてだなと思いました。これから、どんな大きなことを成し遂げても心には平穏がまた来るに違いないって思うので。まさにこの本のタイトル通りというか「達者じゃなくても、それでもいいじゃん」って思えたというか。自分の曲が世の中にヒットしても、しなくても、心に平穏がある。それが一番で。
30年間、刹那的に生きてきて、でも30歳になってようやく自分のルーティンがわかった。苦しくなったら曲を作って、それで救われて、また次に向かって進んでいく。そのサイクルの中で、自分は生きていけるんだなって思えるようになりました。
武道館で本当の覚悟を得て、今は唯一無二の表現者としてステージに立ちたいと思う。4歳からやってきたダンスも、歌も、コンテンポラリーも、全部を表現できる自分でいたい。それがアイナ・ジ・エンドとしての生き方なんだと思います。
でも、最後に待ってるのは平凡な日常で。その平穏こそが一番大切なんだなって気づけたことが大きいです。「達者じゃなくても、それでもいいじゃん」。そう思えるようになったことで、きっと長く歌い続けていけるんじゃないかなって思ってます。

『達者じゃなくても』

アイナ・ジ・エンド
2025年6月9日(月)発売
発売価格:2,970円(本体2,700円+税)
判型:A5変形
頁数:272頁
発行:株式会社 幻冬舎