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「人によって1秒の感じ方も伸びたり縮んだり、違うものなんだ」
―歌詞を書くときは、どのように向き合うものですか?
和久井:歌詞は自分の中から出てくるものだし、そのときの自分の精神状態に依存している気がします。物語っぽくなるときもあれば、意味のわからない言葉になることもあったり。書いているときはそこまで意識していないんですけど、書いてから数カ月経ったあとに見返してみると、「このとき、私はこんなことが嫌だったんだな」とか、「こうしたかったんだな」とか、そういうことが見えてくることもあります。
―歌詞を書くのは、和久井さんにとっては楽しいことですか?
和久井:曲を作るよりは難しい作業です。言葉の持つ威力はすごいから、それに飲み込まれて訳わかんなくなっちゃうこともありますね。ノートに文字を書いている時間は、頭が痛くなることも多いし。歌詞を書くことは、曲作りに比べると5倍くらいの時間がかかります。1日ではできないことも多いです。

―『utas』収録曲の歌詞で、例えば“Stepsss feat. Pecori”では<言葉なんてなくなっていいから>と歌われていたり、“joso”では<言葉は いなくなった>と歌われていたり、言葉が不在の状態を眼差しながら言葉を書いている、という表現が時折ありますよね。
和久井:そうなんですよね、矛盾しているというか(笑)。言葉って、「言葉」という単語ひとつとっても意味があり過ぎるくらいなのに、これだけ言語が並んでしまったら捉え方なんて無限大だし、「言葉をあまり当てにしたくない」という気持ちもあるんです。言葉って、表現手段のひとつではあるけど、結局、全部が嘘の可能性もあるなと思う。でも、そのとき何かを感じて言葉を書いたという行為が残っている、そのことから見えてくるものもあるのかもしれないし……。何はともあれ、思っていることを言葉で表現するって、やっぱり私は苦手だなとは思います。そういうところは、歌詞にも滲み出ているのかもしれないですね。
―聴き手としては、そう感じながらも言葉を紡いで歌を歌っている複雑さが、和久井さんの存在をどんどんと豊かに、立体的に見せてくれている気もします。
和久井:ありがとうございます。
―『utas』に収録された6曲は、和久井さんにとって作った当時のことを思い出させる楽曲たちですか?
和久井:そうですね、思い出します。“howa”と“joso”は結構前に作った曲なんですけど、人とのコミュニケーションの中で「言いたいけど言えない」みたいなことがあったり、全然、正直になれない瞬間が多かった時期なんだろうなと思います。だからこそ、言葉がない音楽でなんとか自分を保っていた時期なんだろうなと思う。
―そんな時期に、世には出ていなかったけど、こうした言葉を持った歌たちが生まれていたんですね。今の和久井さんと一番距離が近いと思う曲は、どの曲になりますか?
和久井:最後の“冬の中”だと思います。1年前くらいに作った曲で、今の自分の考え方にフィットしている曲だと思いますね。<意味のない歌 / 意味ありげに歌う>という歌詞とか、今の自分に近いなと思う。
結局、全部なるようになる、というか……。「自分がこうなるのも自然の成り行きなんだな」みたいな。そんな気持ちがこの曲には入っていると思います。この曲を作っていた時期、祖父がちょっとだけ忘れっぽくなっちゃって。忘れられるということに対して、不安に思った時期だったんですよね。でも、それでもいいんだって。今まで生きてきた時間がなくなるわけじゃないし。そういう気持ちは、この曲の歌詞に入っているなと思います。
―「時間が流れている」という感覚がこのEPにはすごくあるなと思ったんですけど、思えば和久井さんの1stアルバムのタイトルは『Time Won’t Stop』なんですよね。もしかしたらずっと、和久井さんにとって「時間」というのは大きなテーマとしてあるものなのかなと思いました。
和久井:確かに、「時間」は無意識の中で自分のキーワードになっているなと思います。『Time Won’t Stop』を作ったときは、とにかくすべての流れが速かったんです。曲を作るのも速かったし、物事が進むスピードも速かった。というか、自分で「速くしたい!」と思っていたんですよね。元々せっかちな性格で、周りの人にも「おっちょこちょい」と言われてきたんですけど(笑)。
そんな自分の性格が『Time Won’t Stop』には出ているし、それが結果的にタイトルにもなっていて。あの頃は、「時が止まってくれない」みたいなイメージがあったんです。でも『utas』を出す頃には、「時間って均等に進んでいるんじゃなくて、人によって1秒の感じ方も伸びたり縮んだり、違うものなんだ」という気分になってきた。自分の中の「時間」の意味が、『Time Won’t Stop』のときとは全然変わったなと思います。
―“冬の中”では<いつかは誰しも / ゆっくりになる>と歌われますが、そうした時間の流れも、今の和久井さんは肯定的に見ているということなんですね。
和久井:そうですね。歳を取るってみんなに起こることだし、それも素敵なことだなと、今は思います。それに、ゆっくりになってから、よくなっていくものもあると思うんです。「若くて、速い」だけがすべてではない。今はそんな気持ちがあります。あと、<ゆっくりになる>ということは、「動かなくなる」ということでもあって。

―そう思うと、1曲目のタイトルが“幽霊になっても美しい”であることが意味深に見えてきますね。ゆっくりになって、いつか止まったあとも、美しいっていう。“幽霊になっても美しい”はものすごくポップで弾けている曲で、この曲を聴くと和久井さんが中学生の頃、ジャスティン・ビーバーのファンだったというエピソードを思い出します(笑)。
和久井:懐かしい!(笑)。でもそうですね、ポップで、弾けて、「もう、どうでもいいや!」って感じで、力まずに作った気がします、この曲は。みんなによく言われるんですよね、「昔ジャスティン・ビーバーとかONE OK ROCKが好きだったんでしょ?」って。意外に感じられるかもしれないですけど(笑)。
―和久井さんのライブを観ると、あまり意外には感じないですよ。
和久井:本当ですか(笑)。高校時代はバンドをやっていたし、ガチガチにクラシックやジャズを聴きまくっている学生ではなかったんですよね。なんなら、そっちはあまり聴いていないくらいで。そういう部分が素直に、このEPには出ているのかもしれないです。