いよいよラストスパートを迎えた2026年1月期の冬ドラマを、ドラマライター3人が振り返る。『ばけばけ』『豊臣兄弟!』『リブート』『冬のなんかさ、春のなんかね』を取り上げた前半の記事に続いて、後半は『替え玉ブラヴォー!』『探偵さん、リュック開いてますよ』『ラムネモンキー』 『テミスの不確かな法廷』『再会~Silent Truth~』『人は見た目じゃないと思ってた。』『終のひと』『俺たちバッドバーバーズ』『未来のムスコ』について語り合ってもらった。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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『替え玉ブラヴォー!』の人間関係のリアリティ
—前半の記事に続いて、次は夜ドラ『替え玉ブラヴォー!』について伺います。北香那主演、岸本鮎佳脚本で女性同士の友情を描く、大人のためのコメディー。突然、親友から絶交された主人公・佳里奈。ラーメンとバレエが絡み合う、「女同士の友情取り戻し」ストーリーとなっています。明日菜子さんはベスト2に挙げていますが、このドラマをどう見ましたか?

明日菜子:大好きなドラマでしたね。ラーメンとバレエと2人の女の友情の話で、北香那さん演じる佳里奈はバレエの道を諦めて企業に就職していて、ラーメンのブログを趣味にしている。で、天野はなさん演じる佳里奈の親友・優美はプロのバレリーナを目指すために、大好きなラーメンを断っているんです。この2人の関係を見て、もし自分が目指していた道を諦めた時に、その道で頑張っていて夢に近づいている友達と、仲良くい続けられるだろうかと考えてしまいました。2人の関係がすごく尊いものに見えたんですよね。
佳里奈はかなり破天荒なキャラで、優美から絶交しようとはっきり宣言されてしまうんですが、どうにか優美の気持ちを取り戻そうとあらゆる手を尽くすんです。ここでもまた自分のことを振り返ってしまいました。人間関係がギクシャクした際、修復することもできるんだけど、それにはなかなか体力を消耗するから、そこまで頑張らなかったことがあったよなあと。彼女みたいにもっと頑張れたら良かったと、昔のことを思い出しました。だからこそ、佳里奈がすごく眩しく見えて、終始、心に刺さってましたね。
藤原:2人とも完璧じゃないところが良いですよね。それぞれに面倒くさいところがあって。優美も最後の方は、割と癖が強いところが出てきて、そこがリアルでした。互いに面倒くさーって思いながら、友達としての関係が続いていくのが、個人的にも自分の日常と地続きに感じられて良かったです。
北村:私、よさこいのシーンが忘れられなくて。他にも、繰り返し見たくなる中毒性のあるシーンが多くて、それは演じる北香那さんの魅力でもあると思います。全体的にドタバタした感じが舞台っぽいと思いながら見ていたのですが、脚本の岸本鮎佳さんはずっと舞台で活動されてきた方だから、女性同士の会話劇なども上手いですよね。
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共同体や共生をほっこりと描いた『探偵さん、リュック開いてますよ』
—では続いて、こちらは藤原さんがベスト2に挙げた『探偵さん、リュック開いてますよ』についてお願いします。
藤原:温泉のお湯が喋るようなヘンテコなドラマなんですけど、お湯が喋りたいと言ったら、そのまま喋る仕事をしてもらうとか、タイムスリップしてきた武士が現代に居たいと言ったら、居ても良いよとか、あらゆる存在を受け入れてしまうのがすごかったですね。前半は温泉街の中の話でしたが、後半はどんどん外に出ていって、ついには海外に出ていく登場人物までいて。中に居ても良いし、外に出ても良い。温泉街を舞台にしたドラマだから、温泉というものの器の大きさを象徴的に表しているのかなと思いました。あと、ドラマの終盤にようやく出てきた主人公の母親役の原田美枝子さんがとても素敵だなと。
明日菜子:面白いなあ、でも、何が面白いか分からないなあと思いながらなんとなく見ていたんですが、最終回でズラッと登場人物たちが揃った時に、不思議な探偵(松田龍平)を中心に、過去から来た武士(三河悠冴)がいて、元FBIの外国人(村雨辰剛)もいて、田舎暮らし系動画配信者(片山友希)もいて……と、共同体や共生についての話だったのかと気づいたんですよね。無理にテーマを見出すのも違うかもしれないですけど、排外主義的な考えが目立つ時代だからこそ、より一層、作品の器のデカさといいますか、何でも受け入れる感じが、より胸にしみた最終回でした。
北村:私もほっこり癒される感じが好きで、楽しく見ていました。舞台となった西ヶ谷温泉には人が自然と集まって来るんですが、主人公・洋輔(松田龍平)と同級生のとしのり(大倉孝二)と圭(水澤紳吾)とのおじさん3人組の掛け合いがすごく好きでしたね。やはり、世代とか性別とか出自も問わず、居たかったら居ても良いというメッセージが作品の根底にあるのかなと思います。企画を手掛けた沖田修一監督と松田龍平さんはこういうことをやりたかったのだなと、しみじみしました。
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平成生まれも楽しめるロスジェネ世代ドラマ『ラムネモンキー』
—続いて、明日菜子さんと藤原さんがベストに挙げている『ラムネモンキー』についてお願いします。
明日菜子:レビュー記事にも書いたんですが、中年男性3人がお茶をしてる画が本当に衝撃的なんですよね。中学当時の部活顧問・マチルダの失踪事件をきっかけに、反町隆史さん、大森南朋さん、津田健次郎さんの3人がたびたび喫茶店に集まって、事件の真相を調べていくのですが、至るどころに男性のケアや、中年男性たちの理想の関係性みたいなものが詰まっていて、毎週グッときています。
登場人物の3人はいわゆるロスジェネと言われる世代ですよね。私は平成生まれなんですが、全然違うように見えて、実は近しいところがあるのかもしれないと思いました。福本莉子さんと濱尾ノリタカさんがおじさん組の会話に参加するんですけど、不思議とコミュニケーションを築けるのも納得します。あと、もう、とにかく反町さんが本当に素晴らしくて、運命的な役だなとも思いました。
藤原:中学時代の回想も描かれますが、子どもの目線からこう見えていた大人が、大人になってから振り返ると実はこうだったという設定も、日本のドラマではあまりないですよね。マチルダ役の木竜麻生さんも、とてもマドンナ的で素敵です。
北村:50代のおじさん達が、小さい頃を思い出すような話なので、ノスタルジーに傾くかと思いきや、今の自分も否定しないというか、「選んできたことは間違いじゃなかった」みたいなことを3人で確かめ合うのも、すごく良いなあと思いながら見ています。
藤原:世代ごとのキャラクターの違いが描かれるのも興味深いです。生瀬勝久さんが演じる、かつてはレンタルビデオショップの店長で今はお金持ちになっている人物は、主人公たちより上の世代ですよね。世代でこんなに金銭感覚が違うのかと驚きました。
明日菜子:おじさんの解像度が高いですよね(笑)。
—生瀬さんのキャラクターには、脚本家・古沢良太さんの実体験が含まれている気がしますね。先生方も、いろいろなキャラクターの人々が出てきて、それぞれに様々な背景を抱えていたことが後から分かってくる展開が毎回グッときちゃうんですよね。
明日菜子:SNSでも、そういう感想を見かけます。裏番組に『冬のなんかさ、春のなんかね』という今期の注目作がありますが、こちらにもコアなファンがいる印象ですね。
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主人公の発達特性を丁寧に扱った『テミスの不確かな法廷』
—では、続いて藤原さんがベスト3に挙げた『テミスの不確かな法廷』に行きましょうか。
藤原:同じチームが演出を手掛けていたドラマ『宙わたる教室』と同様に、登場人物一人ひとりを丁寧に描いているのが良いなと思います。法廷で働く人の端から端まで、個性がしっかり描かれていて、最初は敵のように見えていた山崎樹範さんが演じる検察官もどんどん味が出て来ましたよね。面白く見ています。
北村:主演の松山ケンイチさんのお芝居に、ただただ感服するばかりですね。発達特性があって、大人になっても周りにはそれを隠している生きづらさも描きつつ、法定劇らしい重厚な感じもある。そういう特性を明かすかは個人の選択に委ねられるところなので、ドラマの見せ方としては、慎重さが求められますけど、このドラマは丁寧に描いている印象です。当事者の方は、周りの人からどんなサポートを得られるか、周りの人たちは、当事者の方にどんなケアができるのかなど、様々な視点を得られる作品になっていますね。
明日菜子:発達特性を持った主人公のお仕事ドラマは今までにも結構ありましたけど、発達特性を持った主人公が裁判官だというのは特徴的ですよね。裁判官には法を司る「規範的な人間」というイメージがあるから、周囲も特性を抱えていることには気づきにくい。そこに難しさがありますよね。最近のドラマの中でも、主人公の発達特性に丁寧にフォーカスしている作品だと感じます。
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井上真央、江口のりこら、キャスティングが光った『再会~Silent Truth~』
—では、続いて、こちらも藤原さんが次点に挙げている『再会~Silent Truth~』についてお願いします。
藤原:物語そのものだけでなくディテイルが面白くて、江口のりこさんが突然タップダンスをするなど、面白いことがところどころで起きるんですね。橋部敦子さんの脚本の魅力でもあると同時に俳優さんたちの凄さも感じます。あと、井上真央さんって現代においてマドンナ的存在を演じることができる数少ない俳優さんだと思うんですね。昨年の映画『サンセット・サンライズ』など文芸路線のヒロインを多く見てきた中で、今回の役はこれまでと少し違う「魔性」な感じが素敵です。
明日菜子:本作は、TVerでもNetflixでもランキング上位にあがる人気ですよね。やはり俳優さんのお芝居がすごい。竹内涼真さんは前期の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』であんな印象的な役をした直後に、王道路線の硬派なお芝居をされていて、そのギャップに驚いた方も多いのではないでしょうか。やっぱり竹内さんって「持ってる」俳優さんなんだなと思った作品でもあります。
北村:私は、どんどん逃げ場が無くなっていった主人公達を、辛いなあと思いながら見て来たんですけど、やっぱり竹内涼真さんの演技の凄みは再確認しています。あと、江口のりこさん演じる南良は、クレバーで人に対する洞察力がすごくある人物ですが、先ほど藤原さんが挙げたタップダンスなど、次は何をするのか予想がつかない面もある、新しい魅力的なキャラクターだと思います。
明日菜子:江口さんのあのキャラ、『白夜行』(TBS系 / 2006年)の武田鉄矢ポジションだと思ったんですよね。江口さんはもうその域にいるのか……と驚きがあります。
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『人は見た目じゃないと思ってた。』『終のひと』……まだまだある2026年冬期の注目作
—ここまで今期の注目作についていろいろ伺ってきましたが、まだ名前が出ていないけれどぜひ話しておきたい、という作品があれば、ご紹介いただけますか?
明日菜子:私は『人は見た目じゃないと思ってた。』を挙げたいです。タイトルの通り、ルッキズムについてのドラマです。ルッキズムは時々ドラマのモチーフとして扱われることもありますが、大抵は女性視点の話になるので、まず、若い男の人が主人公っていうのが珍しいなと思いました。
明日菜子:主人公は野球一筋で生きてきて、オシャレとは程遠い世界に居たんですが、ある日突然、ファッション誌の編集部に配属されるんですね。この主人公がとにかく自意識が強い(笑)。オシャレに興味がないというか、オシャレをする自分が恥ずかしいんです。ホモソーシャルの中で生きてきたから、オシャレをしたらイジられるんじゃないかと思っている節があるんですよ。この自意識の強い若者像っていうのが、すごくリアルだなと思いました。
この作品の良いところは、ルッキズムという比較的新しい概念に対して、作品自体も手探りなんですね。このテーマに対する正解は完全に決まってないかもしれないけど、最終回に向かって、世間の空気を感じながら物語を作っていくことは、テレビドラマだからこそできることだと思いました。最終回は、初見では驚かされたんですよ。でも、ルッキズムという概念に対する折り合いの付け方やバランスが絶妙で、このエピソードではないと描けなかったとは思います。良い最終回でした!
北村:私も見ていて、最終回はすごく衝撃でした。最終回でこの作品に対しての見方や考え方が変わりました。
明日菜子:最終回は、主人公のメンターである剛力彩芽さんにスポットが当たるんです。この物語の中心はオシャレや着飾ることが好きな人たちですが、一方でルッキズムに苦しめられている人もいる。単純に「オシャレするのがいいよ!変わろうよ !」という方向にエンパワーメントする物語で終わらなかったのが良かったです。
—では続いて、北村さん、いかがでしょうか。
北村:ベストにも挙げましたが、葬儀業界を舞台にしたヒューマンドラマ『終のひと』に注目しました。私自身が葬儀業界で仕事をしていた経験があるのですが、すごく細部までリアルに作り込まれていると思いました。使われてる小道具、仏具なども本物なのが、見て分かるんです。
北村:あと、柿澤勇人さんが演じる葬儀屋の社長さんが「自分で全部やる」んですね。人数が少ない会社だと、社長が自ら、例えば故人の方のお着替えさせる儀式までやったりすることが実際にあるんです。そういう中小の葬儀業界あるあるのような、これどうやって取材したんだろう? と思わせるリアリティがすごかったです。しっかり取材を重ねられている点に信頼が置けて、ずっと見ています。
明日菜子:昨年、綾瀬はるかさん主演の『ひとりでしにたい』(NHK総合)もありましたが、人の生死に関わる作品は今後も増えていくのかなと本作を見ても思いました。特に印象に残ったのは、凶悪犯の葬儀をする回ですね。たとえば、医療ドラマで凶悪犯が緊急搬送されて、医師たちが救うかどうかを葛藤するみたいな場面は結構見たことがあるんですけど、葬儀屋さんのパターンは初めて見ました。葬儀屋さんの場合は、すべてが終わっているからこそ、誰に対してもフラットな感情で向き合おうとするんですよね。そうした死生観って、もしかしたら葬儀屋に務められている方特有なのかもしれないと、印象に残りました。