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ドラマ『テミスの不確かな法廷』は「呪いの言葉」を「祝いの言葉」へ変えていく

2026.3.10

#MOVIE

©NHK
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ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の特性を持つ裁判官・安堂清春(松山ケンイチ)を中心とした法廷ヒューマンドラマ『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)が最終回を迎える。

清春の特性からくる「こだわり」が、様々な事件の解決のきっかけになってきたが、物語の終盤、第6話から描かれた前橋一家殺人事件の再審請求審の鍵を握るのは、清春の父で最高検察庁の次長検事・結城英俊(小木茂光)だった。

弁護士・小野崎(鳴海唯)、部長判事・門倉(遠藤憲一)、判事補・落合(恒松祐里)など個性豊かな前橋地裁第一支部の人たちも魅力的な本作について、前半を振り返った記事に続いて、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。

「確か」であるはずの司法の仕事が揺らいだ第6話

物語の後半は清春(松山ケンイチ)と父・結城英俊(小木茂光)の関係に焦点が©NHK
物語の後半は清春(松山ケンイチ)と父・結城英俊(小木茂光)の関係に焦点が©NHK

ドラマ『テミスの不確かな法廷』のタイトルの中にある「不確か」という言葉について考えてみる。「不確か」、それは、主人公・安堂清春(松山ケンイチ)がよく言う「分からないことを分かっていないと、分からないことは分かりません」という言葉にも通じる。本作がこれまでに明らかにしてきたのは、この世界が「不確か」なことばかりであるという現実だ。ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の特性を持つ清春にとって、唯一、明確なルールである法律に基づいて「地球人の争いを解決するため、適切な判断を下す」ことであり、本来「確か」であるはずの司法の仕事までもが、第6話から第7話にかけて、大きく揺らいだ。それも、清春の父であり、最高検察庁の次長検事である結城英俊(小木茂光)を中心にして。

正義の女神「テミス」像の下を行き来する人々

清春と共に奮闘する個性豊かな前橋地裁第一支部の人々©NHK
清春と共に奮闘する個性豊かな前橋地裁第一支部の人々©NHK

本作は、必ずしも「不確かなものを確かなものにしていくドラマ」ではない。この世界の不確かさを嫌と言うほど知っている人々が、それでも、確かな何かをつかもうと奮闘する姿を描いたドラマだ。清春たち前橋地裁第一支部の人々が、事件の周辺に存在している、見落とされがちな「分からないこと」を丁寧に調べ上げていく中で、事件の当事者たちが抱える人生そのものが浮き彫りになっていく。

また、不確かなのは、裁判で扱う事件に限ったことではなく、裁判官、弁護士、検察官、執行官、精神科医といった法を司り、人々を裁く側にいる人たちがそれぞれに抱える思いでもある。本作のタイトル中にもあり、弁護士・小野崎(鳴海唯)が度々見上げる正義の女神「テミス」像は、司法の公正さの象徴として知られている。その像の下を行き来する司法の仕事に携わる人々が悩み、迷いながら、真実を追求する姿には、本作の「公平さ」を強く感じる。

「その人らしさ」が丁寧に扱われる魅力

門倉(遠藤憲一)と落合(恒松祐里)の「らしさ」も丁寧に扱われた©NHK
門倉(遠藤憲一)と落合(恒松祐里)の「らしさ」も丁寧に扱われた©NHK

本作で何より魅力的なのは、あらゆる登場人物のその人物たる「個性」が丁寧に扱われていることだ。前橋地裁第一支部の人たちは、さりげなく、あるいは無意識に、互いの「その人らしさ」を大切にしている。

例えば、第7話で、前橋一家殺人事件の再審請求審が行き詰まる中、担当弁護士・穂積(山本未來)に煽られた部長判事・門倉(遠藤憲一)が「裁判所主導で新たな証拠を見つける」と決断した時。いつもなら「簡単に煽りに乗るのが門倉さん」とでも言って否定しそうな判事補・落合(恒松祐里)が、彼女なりの主義主張を混ぜつつ同調する。その意外な反応に、門倉と清春は2人揃って驚いた顔をする。この時、第4話で見せた、かつて「伝説の反逆児」と言われた門倉の人となりと、第5話で、一見クールな落合が持つ優しさと熱さを既に目にしていた視聴者は、それぞれの「らしさ」に膝を打つと共に、それぞれの変化に嬉しくなるのである。

匿名の投書を巡って「全く関連性がないからこそ、本当に見えない関連性があるのではないか」と清春が指摘した時には、門倉が「安堂君らしいロジック」と肯定する。あるいは第5話では、思考に集中すると1点を凝視しがちな清春を、「いきなりきた、安堂さん、集中し始めるとこうなるんです」「安堂流だよな」と喜んで見つめる小野崎と検察官・古川(山崎樹範)の姿があった。前橋地裁第一支部の人々は、清春が発達障害の特性を持つことを知らない。彼らには常に、誰も思いつかない発想で難解な事件を紐解いてきた清春への心からの敬意と親しみが、ただあるのだ。

第6話で、父・結城が大きく関わる再審請求審に対して「本当に関わっても? 僕は宇宙人なのに」と呟く安堂の姿を目撃した小野崎は、清春にその真意を問いただすのかと思いきや、「本当に宇宙人なのか」と問いかける。予想外の質問に、清春は思わず笑い、「小野崎さんって、変わってますね」と言う。「安堂さんに言われたくありません」と返しつつ、「変わってるって誉め言葉ですよね。個性的ってことでしょ」と微笑む小野崎によって、彼が抱えているものが少し軽くなったように見えた。

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