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松井玲奈×島本理生が語る、病気や痛みとの付き合い方。「食事」が繋ぐ人間関係

2026.3.13

#BOOK

島本理生の小説『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』は、さまざまな人生観、恋愛観をもった女性が出てくる。結婚をしたくて相手を探したり、一人でいることを選んだり、別れに踏み切ったり。仕事熱心なOL・知世と年上のエンジニア・椎名さんの関係を軸にしながら、結婚や家族、病気といった、気持ちだけでは走り出せない、行方のわからない大人の恋愛を描いている。

「人生には大変な出来事があるけれど、一つひとつ丁寧に積み重ねていくと、ふとした瞬間で『もうここから抜け出して、次のステップに行っていいんだ』って心が決まるときがある。そんな瞬間がシームレスに描かれている素晴らしい作品」と話すのは、俳優・作家の松井玲奈。島本の大ファンで、本作のAmazon オーディブル(以下、Audible)の朗読を担当した。食事と孤独、物語が描く「生きていくために大切なこと」について、二人に語り合ってもらった。

大人の恋愛はお互いの気持ちを伝え、状況を共有することで関係性を積み上げていく

─松井さんは、島本さんの大ファンだと伺っています。島本さんの小説『よだかの片想い』が映画化された際も、主演を演じられていました。

松井:初めて読んだ島本さんの作品が『よだかの片想い』でした。アイドルグループを卒業した後に、ようやく読書する時間ができて、本屋さんでふと目に留まったんです。それまで、ファンタジー小説ばかり読んできたので、現実を舞台にした同世代の恋愛小説は初めてで、衝撃を受けました。読み終えてすぐ本屋さんに駆け込んで、そこにあった島本さんの本をあるだけ買って帰りました。それから、新刊が出ると必ず読んでいます。

島本:ありがとうございます。

松井:島本さんの描く、本人にしかわからないような繊細な部分の掬い上げ方がすごく好きなんだなって、今回『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』を朗読させていただいて改めて感じました。

─島本理生さんの著書『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』を、松井さんは刊行当時一人で台湾を旅行中に読まれていたと他のインタビューで拝見しました。

松井:懐かしいです……そうですね。この作品は、島本さんの書かれるものの素敵な部分がギュッとつまっていると思います。人生には大変な出来事があるけれど、一つひとつ丁寧に積み重ねていくと、ふとした瞬間で「もうここから抜け出して、次のステップに行っていいんだ」って心が決まるときがある。登場人物のスイッチが入る瞬間がシームレスに描かれていて、読んでいて気持ちよかったです。

松井玲奈(まつい れな)
1991年7月27日生まれ、愛知県出身。俳優、作家として活躍する。主な出演作には、映画『gift』(2014年)、NHK連続テレビ小説『まんぷく』(2018年)、NHK大河ドラマ『どうする家康』(2023年)など。小説家としても活動しており、『カモフラージュ』(2019年)、『累々』(2021年)を発表した。最新作は『ろうそくを吹き消す瞬間』(2026年)。

─本作は、知世と椎名さんが美味しい食事とデートや旅をしながら、関係を深めていきます。

島本:この作品は、当時流行っていたデートスポットなど、自分も興味があったり食べて美味しかったりしたものをリアルタイムで取り入れた作品でした。それこそ30代は体力も食欲もあり、経済的にも安定してくるので、大人としての自由がありますよね。友達と飲んだり旅行したり、プライベートが楽しいとき。その感じが小説に出ているのか、結果的に長く読んでもらえています。

島本理生(しまもと りお)
1983年東京都生まれ。2001年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作を受賞し、デビュー。2003年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、2015年『Red』で島清恋愛文学賞、2018年『ファーストラヴ』で直木賞をそれぞれ受賞。近著に『天使は見えないから、描かない』、『一撃のお姫さま』など。

─椎名さんがHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していること、また知世と家族の複雑な関係性など、病気、結婚、家族といった問題と向き合う姿も印象的です。HIVは死に至る病と言われていた1990年代前半から、現代では治療可能な慢性疾患となりましたが、差別や偏見は一部残ったまま。HIVを題材にすることについて、反応はありましたか?

島本:そこだけ取り出して質問されることはほぼなかったです。私がHIVという病気を初めて知った十代の頃はまだ偏見やあやふやな情報がはびこっていました。きちんと知っておきたいけれど、触れてはいけない病気というイメージを持ってしまった。でも、だからこそ、書きたいと思っていました。恋愛と性は密接なものですし、HIVについて調べると、進行を止める治療薬が開発されるなど医学の進歩によって希望も見えていたので。

松井:椎名さんが知世に病気を打ち明ける描写は印象的ですよね……。二人はその後も、お互いの気持ちを理解し合って、丁寧に状況を共有する。心も体もちゃんと繋がっていく様子が、一冊を通して描かれていると思います。今回私は朗読を担当しましたが、最初はお互いが緊張している感じを朗読でも表現していて。そこからラストに向かって柔らかい声を意識していました。文章からも二人の関係性が丁寧に積み重ねられている感覚があったので、自然と役に落とし込めました。

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