INDEX
なぜ彼女は誰かと組みたがるのか? 異常に高い「才能に魅了される能力」
「自作曲封印という“禁じ手”を繰り出し、タイトルに掲げた」作品である、という事実は、ご存知のように、椎名林檎にとってめずらしいことではない。
そもそも、椎名林檎はひとりですべてを作って完結させるよりも、誰かに曲を作ってもらったり、誰かにアレンジを託したり、誰かと共同でプロデュースをしたり、誰かと一緒に歌ったり、というふうに他者とコラボレーションしていくことの方に、重きを置いているクリエイターである。
ライブのステージ演出や、MVやVJなどの映像関係や、前述のリオ五輪の終幕セレモニーのような規模の大きな仕事の時は、人の手を借りなければいかんともしがたいだろうが、それだけではない。
作詞、作曲、アレンジ、プロデュースという、椎名林檎ならひとりで完結できる音楽の創作作業においても、そうしない。誰かと何かをやりたがる。なぜそうするのか。
その人の才能が魅力的だから、自分の音楽に取り入れたい。あるいは、それが「自分の音楽」にならなくてもいいから、一緒に何かを作りたい。才能ある誰かと何かをやることで、自分ひとりでは想像も及ばないような、新しいものが生まれるかもしれないので、その可能性にトライしたい。そのことが、これまでの自分を変えてくれるかもしれない。そもそも、誰かに出会いたい。誰かとなんかやりたい。ひとりで作っていると飽きる。……などなど、理由はいろいろ考えられるし、どれも間違いではないという気もするが、それらの大前提として、「人の才能に魅了される能力が異常に高い」ということが、とても大きいのではないか。考えたら、そもそも、そういう人なのではないか。ということに、本作をくり返し聴いていて、思い当たった。
人の才能に魅了される能力が異常に高いから、それを見つけるのが早いし、その人の才能の核の部分を把握できる。自分がどう組めば(もしくは組まなくても)、どうやればその人の才能を活かすことができるのかがわかる、という能力は、椎名林檎の数ある武器の中のひとつであり、彼女のどの作品にもその要素は入っている。
前作『放生会』も13曲中の7曲でゲストの参加があったが、今作のように「作曲しません」というコンセプトを決めて、その部分を前面に押し出して作ると、こんなに新鮮で刺激的でポップな作品になる(そう、もっとアバンギャルドになっても不思議はないのにポップなのだ)。それが、本作『禁じ手』の面白さなのではないか、と思う。
それから、もうひとつ。ラストの曲である“憂世”には、“antiwar”というサブタイトルが付いている。1曲目の“至宝”の歌詞がフランス語で歌われているのに対して“憂世”の歌詞が英語なのは、椎名林檎と初めて仕事をした頃の三宅純はパリ在住だったが、2024年〜現在はニューヨーク在住になっているという事実に添った、と捉えることも可能だ。
が、この曲が届く人・届く範囲を、少しでも多く・広くしたくて、フランス語ではなく英語を選択したのではないか、と推測することもできる。
『禁じ手』

2026 年 3 月 11 日(水)発売
【初回限定盤】 【通常盤】
【初回限定盤】 UPCH-29502 ¥3,960 (税込)
・ケース付きハードカバー・ブック仕様
【通常盤】 UPCH-20716 ¥3,300 (税込)
<収録曲>
01 至宝 三宅純と椎名林檎
02 苦渋 伊秩弘将と椎名林檎
03 芒に月 伊澤一葉と椎名林檎
04 覚め醒め BIGYUKI と椎名林檎
05 W●RK ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄと椎名林檎
06 SI・GE・KI 向井秀徳と椎名林檎
07 2○45 ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄと椎名林檎
08 秘め初め BIGYUKI と椎名林檎
09 松に鶴 伊澤一葉と椎名林檎
10 愛楽 加藤ミリヤと椎名林檎
11 憂世 三宅純と椎名林檎
※注:ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ(millennium parade)