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井上真央が複雑な役柄で魅せる見事な演技

万季子のような守られる役柄を井上が演じるのは珍しい。井上と言えば、昼ドラ『キッズ・ウォー』(TBS系)シリーズの今井茜役や『花より男子』(TBS系)の牧野つくし役など、悪に立ち向かう意思の強い役柄で初期のキャリアを築いた俳優だ。2023年に主演を務めた『100万回言えばよかった』(TBS系)で演じたのは、恋人の死の真相を追う相馬悠依役。悠依は大切な人を失った悲しみに打ちひしがれながら、隠された秘密を追い求める役柄で、結果的に周りに秘密と嘘を強いていた万季子とは対照的だ。強い思いに突き動かされて行動を起こしてきた過去の役柄と比較すると、万季子は井上にとって特異な立ち位置のキャラクターであると言えるだろう。
万季子は、正樹との生活と将来を守るために、直人や圭介と秘密を守り続けてきた。更に、淳一(竹内涼真)に思わせぶりな言葉をかけたり、離婚した後の圭介と一線を越えそうになったり、直人に守られることを受け入れているかのような態度を取ることもあった。そんな万季子は、3人の男性を振り回して惑わせる女性という印象も与え得る。しかし、井上は万季子の魔性の女にも思えるような面を特段強調することなく、あくまで、息子や自分の尊厳を守るために必死な普通の女性として演じることに成功している。
第7話、淳一が長年抱えてきた罪を受け止めた場面では女神のような包容力を見せながら、第8話では淳一を苦しみから救うために、秀之殺しの凶器である拳銃を南良(江口のりこ)に差し出し、警察に捕まることを選んだ。大切なものを守るために嘘を重ねながらも、悪者になりきれない優しさが万季子にはある。
井上は、そんな多面的で複雑な万季子を、シーンごとに絶妙なニュアンスを加えながら演じている。とくに第7話、第8話で井上が見せる表情には、どうしようもなく惹きつけられた。これまでの長いキャリアで積み上げてきた演技力が、この複雑な役柄で見事に結実したと言えるだろう。