映画『ブゴニア』がアツい。韓国の伝説的なカルト映画『地球を守れ!』のリメイク作品で、『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス監督と『ミッドサマー』のアリ・アスター、さらには『パラサイト 半地下の家族』の製作チームが名を連ねるという、奇跡の集結が実現した本作は、第98回アカデミー賞では作品賞、主演女優賞、脚色賞、作曲賞の計4部門にノミネートされ、先日の公開以降日本でもヒットを続けている。
物語は、陰謀論に取り憑かれた青年・テディ(ジェシー・プレモンス)が、「彼女は地球を滅ぼそうとするエイリアンだ」と信じ込み、巨大企業の敏腕CEO・ミシェル(エマ・ストーン)を誘拐、監禁するところから始まる。監禁される切れ者CEOと奇妙な誘拐犯による、会話がまったく噛み合わない予測不能な心理戦に加え、オーディションで大抜擢された新人エイダン・デルビスの演技も見どころだ。
そんな話題作を、3人の映画ライターが解説・考察をする。
※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
『ブゴニア』の原作『地球を守れ!』との違いは?
─まずは、本作を観ての率直な感想はいかがでした?
竹島:ヨルゴス・ランティモス監督、相変わらずやってんなと思いました(笑)。ギリシャで撮っていた時代からだいぶマニアックな作風だなと思っていて、アメリカのメジャーシーンではもう少し通俗的な内容になるのかと思いきや、全くそうならないですよね。2026年の「第60回スーパーボウル」(※)のCMでもランティモス監督はエマ・ストーンとタッグを組んでいましたし、そちらでも作家性が炸裂してましたね。
※アメリカのプロアメリカンフットボールリーグ「NFL」の優勝決定戦。2月の第2日曜日に開催され、全米視聴率が約40%にのぼるアメリカ最大のスポーツイベント
伊藤:私は『哀れなるものたち』(2023年)に苦手なグロテスクなシーンが多いことや、原作に書かれていた「船内で知性を得るプロセス」が簡略化されていたこともあって、個人的にはハマらなかったんです。でも『憐れみの3章』(2024年)は乾いたタッチや、作品内の3つのエピソードの中で同じ役者が別のキャラを演じているという構成の面白さもあって、面白く観られました。
また、今作で製作に入っているアリ・アスター監督の作品は残酷な表現のイメージがあり、今まで避けていました。ですが、『エディントンへようこそ』(2025年)を観た際に、その世界観に没入できたんです。それで今作も観てみたところ、2作品とも共通して「妄想や心理戦」が非常に興味深く描かれていると感じました。どちらも残酷なシーンが一瞬で終わってくれるので、私でもすごく楽しめたんです。音楽もとても興味深くて、ランティモス監督の良さはこういうところにもあるのかと気づかされました。
ヒナタカ:僕はシンプルにハラハラドキドキのエンタメ性があって、めちゃくちゃ面白かったです。観た後に知って驚いたのが、歪な設定や画作りなどに「ランティモス監督らしさ」が満ち満ちているのに、原作となる韓国映画が存在することでした。その『地球を守れ!』(※)は配信サービスになく、DVDもすでに廃盤となっていて見るのが難しいのが惜しいですよね。
※『地球を守れ!』:2003年公開の韓国のSFサスペンスコメディ映画。地球がエイリアンに侵略されていると信じ込む青年が、会社社長をエイリアンと断定し、誘拐・監禁して拷問する物語
竹島:僕は『ブゴニア』の後にDVDで見たのですが、明確に違いがありましたよ。たとえば、『ブゴニア』では陰謀論者の2人が男の従兄弟同士でしたが、『地球を守れ!』では男女のカップルで、誘拐される社長も男の人だったんです。さらに拷問シーンがかなりサディスティックだったり、それでいて直球にコメディっぽい部分もあり、かなりテイストが違っていました。『ブゴニア』はよりブラックに仕上げたというか、「ランティモス監督の意地の悪さを煮詰めたらこうなりました」みたいな感じがありましたね(笑)。
ヒナタカ:『哀れなるものたち』も原作がありますし、脚本を別の方が手がけることも多いのですが、それでもランティモスの色に染まるのがすごいと思いました。