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トランスジェンダーが精神疾患扱いされた1990年代。「ブルーボーイ事件」の影と医師との出会い
しかし、年齢を重ねるにつれて成長していく身体が自身の性のあり方からかけ離れていく恐怖を抱え、本当の自分になることはできないのだと絶望を感じながら生きていたアイ。そんなとき、医師の和田耕治(斎藤工)と出会い、アイの運命は大きく変わる。
当時、1965年に起きた「ブルーボーイ事件」(※)裁判により性別適合手術を行うことはタブー視されていた。しかし、そんな時代にも自身の性自認に合わせて適合手術を望む人たちは数多く存在した。アイもその一人だ。そんな人たちを「生かすため」に、和田はアイの「女にしてほしい」という願いを承諾する。
※1960年代に日本で起きた性別適合手術をめぐる裁判事件。トランス女性に対して性別適合手術を行った医師が、当時の優生保護法における「不妊手術の禁止規定」に違反するとして起訴された。裁判では手術の医療的正当性はほとんど考慮されず、有罪判決が確定。この事件をきっかけに、日本では性別適合手術が長年タブー視され、トランスジェンダー医療と権利保障の発展が大きく遅れる結果となった。

過去に患者を救えなかったことに苦しみ続けている医師。アイとの出会いで、性別違和に苦しんでいる人が多くいることを知り、日本では難しいとされていた性別適合手術へ踏み切る。警察に目をつけられ世間からの激しい批判にさらされ、少しずつ疲弊していく。
1990年代、トランスジェンダーが医学的にも「精神疾患」(※)と見なされていた時代に流れていた冷酷な眼差しや逆風と闘いながら、本当の自分を取り戻すことを諦めなかった愛と和田の覚悟が、本作では色濃く描かれる。
性別適合手術を終えたアイは、「これでアイドルになれる」と上京することを決意。しかし、ニューハーフというだけで芸能事務所やイベントプロモーターから門前払いされる日々が続き、アイは夢を諦めかけそうになりながらも「自分にしかできないこと」を見つけていく。
※2018年にWHO(世界保健機関)が国際疾病分類の改正版を発表し、その改正で「性同一性障害」が精神疾患のカテゴリーから除外され、「性の健康に関する状態」というカテゴリーに「性別不合」として再分類された。それに伴い、2024年に日本の専門学会も「性別不合」を用いるようになり、医学界では非病理化の方向に進んでいるが、診断名や法律上に明記されている言葉は未だ「性同一性障害」のままである。