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『テミスの不確かな法廷』レビュー “宇宙人”の裁判官は、誠実に悩み続ける

2026.2.3

#MOVIE

©NHK
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NHK火曜夜10時のドラマ枠「ドラマ10」で始まった法廷ヒューマンドラマ『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)。

『東京サラダボウル』『しあわせは食べて寝て待て』『舟を編む~私、辞書つくります~』など数々のドラマ賞に輝いた傑作ドラマを生み出して来た「ドラマ10」の最新作であり、ギャラクシー賞にも輝いた『宙わたる教室』制作チームが手掛けていることでも話題となっている。

過敏症や発達の特性を抱える主人公・安堂清春を演じる松山ケンイチや、『宙わたる教室』に引き続いての出演となった小林虎之介、伊東蒼らの好演も話題の本作について、ドラマ / 映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。

安堂の背中の寂しさ、その背景にあるもの

自分を「宇宙人」と思うことで世界と対峙してきた裁判官の安堂清春(松山ケンイチ)© NHK
自分を「宇宙人」と思うことで世界と対峙してきた裁判官の安堂清春(松山ケンイチ)©NHK

『テミスの不確かな法廷』第1話は、主人公・安堂清春(松山ケンイチ)の後ろ姿から始まる。会話に盛り上がる女性たちの声、通過する車の音の騒々しさに、彼は思わず立ち止まり、耳を触る。そこから彼が見上げるもの。そよ風に乗って飛んでいく「ふわふわ、ふわふわ、ふわふわ」としたタンポポの綿毛。アスファルトの上に落ちたそれを拾おうとする彼に幼い頃の記憶が甦る。

「どこに落ちるか分からない」種を、丁寧に拾って土の上に並べてあげる優しい少年・安堂を、同年代の子どもたちは「変わってる」と囃し立てていた。安堂は、綿毛を拾うのをやめ、また歩き出す。その背中の寂しさの背景には、彼以外の人には分からない彼の見ている世界がある。聴覚過敏や感覚過敏の特性を持つ彼は、我々にとっては何気ない音の連なりを不快に感じる一方で、多くの人が気づかない世界の美しさを知っていて、多くの人が気にもしない声なき声に耳を傾けることができる。

そしてもう1つ、その背中の寂しさの背景にあるのは、彼が感じている痛みだ。幼い頃、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)と診断された彼は、他者を「地球人」と見做し、他者と違う自分を「宇宙人」と思うことで世界と対峙してきた。「地球人に擬態しなければ」と、自分の思いを曲げて生きる彼の心の痛みまで冒頭2分で表現した本作は、「分からないこと」だらけのこの世界の美しさと複雑さを、丁寧に教えてくれる。

『宙わたる教室』から連なる小林虎之介・伊東蒼の好演

安堂が担当する裁判の被告人・江沢卓郎役を演じた小林虎之介© NHK
安堂が担当する裁判の被告人・江沢卓郎役を演じた小林虎之介©NHK

NHKドラマ10『テミスの不確かな法廷』は、新聞記者でもある直島翔による同名小説(KADOKAWA)を原作に、脚本を『絶対零度~情報犯罪緊急捜査~』シリーズ(フジテレビ系)や『イチケイのカラス』シリーズ(フジテレビ系)の浜田秀哉が手掛けている。また、チーフ演出の吉川久岳をはじめ、2024年に放送された定時制高校の生徒たちを描いた傑作ドラマ『宙わたる教室』(NHK総合)の制作チームが参加している。球体の連なりを基調としたオープニング映像のアニメーションや、『宙わたる教室』で生徒を演じていた小林虎之介、伊東蒼の好演(それぞれ第1話、第3・4話に出演)など、両作にはつながりを感じさせる部分があり、それを見つけるのも楽しい。

大人たちの醜さを真っ直ぐに見つめる原告・四宮絵里を演じた伊東蒼© NHK
大人たちの醜さを真っ直ぐに見つめる原告・四宮絵里を演じた伊東蒼©NHK

小林虎之介は第1話に、裁判官である主人公・安堂が担当する裁判の被告人・江沢卓郎役で登場。裁判でのやりとりの中で、本作の本質とも言える安堂の「分からないことを分かっていないと、分からないことは分かりません」という言葉を引き出した。また、伊東蒼は第4話で、大人たちの醜さを真っ直ぐに見つめる原告・四宮絵里を演じた。「裁判ってなんなんでしょうか。毎回いろんな人がそれぞれの立場で都合のいいことを言って、真実がどんどん変わっていく。ただ、私は本当のことが知りたいだけなのに」という台詞が印象的だ。どちらも法廷で安堂と出会い、真実や判決だけでなく自分自身とも向き合うことになった若者という、本作にとってなくてはならない重要な役割を担っていた。

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