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「町の外側」の普通が明示された第6・7話

しかし、第6話は少し様子が違っていた。洋輔が、高校時代の同級生で人気女優の神林リカ(夏帆)と会うために、何度も西ヶ谷温泉の外に出るのである。舞台はまず、洋輔がリカの「思い出の人」として出演することになったテレビ番組の収録で、出番を待っている場面から始まる。その後も洋輔はリカと街を歩き、クレープを片手に手を繋いでタクシーに乗り込み、遊園地に向かうなど、第6話の多くの場面は西ヶ谷温泉の外側で繰り広げられた。
洋輔は移動手段として、リュックに仕込んだロケット装置を起動させる。そこで映し出されるのは、周囲の人々が驚く姿である。一度目は、公園で昼ご飯中のサラリーマンが食べようとしていたサンドイッチを危うく落としてしまいそうになり、二度目は、人気女優と写真を撮ってもらおうとリカの周りを取り囲んでいた修学旅行生たちが、突然、リカが洋輔に抱えられて空へ飛んでいく姿を目の当たりにして大騒ぎする。ここではじめて、西ヶ谷温泉の「普通」が、町の外側の世界にとっては普通ではなかったことがわかる。つまりは視聴者にとっての「普通」が作中にも存在することが明示されるのである。
そんな第6話のメインストーリーは、人気女優であるリカが、初恋の人・洋輔と共に過ごす特別な一日だ。その一日の終わり、リカは、洋輔が発明し、町の人々が愛する「聴いている人たちの固定観念が消え去る」音楽を聴きながら、夫であるタカシと共にメリーゴーランドに乗り、「月がきれいですね」と愛を語らった後、日常へと戻っていく。夢のような夜のライブシーンの後、リカとタカシが町の人たちと集合写真を撮る場面は、まるで祭りの終わりを示しているかのようだった。

第7話で描かれたのは、ハードスケジュールに疲弊し仕事をボイコットした人気タレント猫・テディによる、業界の「働き方改革」に洋輔が協力する話だ。少しの間、人気者としての役割から解放され、「温泉」にちなんでつけられた「イズミ」という名前で、普通の猫としての西ヶ谷温泉での日常を満喫したテディは、やがて元の世界に戻っていく。
第6・7話の物語は「探偵さん流ローマの休日」とでも言うべきものだった。これまでの各話は、町の人々が主人公か、外から来た人が西ヶ谷温泉(と洋輔が住む旅館「ゆらぎや」)に居着いてしまう話が主だったが、リカとテディはそうではなく、自分がいた場所へと戻っていく。物語が、西ヶ谷温泉の外へと向かっているのだ。そのことは、第6話で「フレッシュマート酒井」の看板娘・酒井あおい(髙橋ひかる)が、町を訪れたリカの夫・タカシ(中島歩)を相手に、東京への強烈な憧れを口にしたことからもわかる。