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お江戸の名探偵・柄本佑
先述の通り、この物語は、ちょうど森田座でかかっていた『仮名手本忠臣蔵』のような仇討ちがメインのお話ではない。人情時代劇ミステリーだ。主演でもある探偵役は、菊之助と同じ遠山藩の元藩士・加瀬総一郎(柄本佑)。菊之助の仇討ちの顛末に疑問を持ち、森田座の面々に聞き込みをして回る。

あの虫も殺せないほどに優しい菊之助が、どのようにして大男の作兵衛を討ち果たしたのか。なぜ菊之助は、江戸に向かったのか。死んだ作兵衛の首は、どこに行ったのか。
一見、風采の上がらない田舎侍然とした総一郎は、飄々としたキャラで人たらし。昼飯時になるとタイマーのように腹が鳴り、聞き込み相手が食事をおごる羽目になる。蕎麦であったり柳川鍋であったり、登場する江戸名物がいちいち旨そうである。最初は「なぜ俺がおごらねばならんのか……」という風情だった面々も、総一郎があまりにも旨そうに食べるため、なぜかおかわりを勧めてしまったりもする。得なキャラである。
演じる柄本佑は今、日本でいちばん飄々とした役が似合う俳優だ。だが彼が演じる役柄は、いつもただお気楽に飄々としているだけではない。
『GONINサーガ』(2015年)におけるルポライター・富田も、『シン・仮面ライダー』(2023年)における一文字隼人も、『光る君へ』(2024年、NHK)における藤原道長も、みな、飄々とした中に陰を背負い、そして、強さを秘めていた。

森田座の殺陣師・相良与三郎(滝藤賢一)も、先述の芳澤ほたる(高橋和也)も、彼の剣の腕前、および肚の据わりようを見抜いている。特に、後に「幕末江戸三大道場」とも呼ばれた桃井道場の師範代まで務めた与三郎が、「立ち会ったら相討ち」と視た。相当な手練れである。

原作における総一郎は、菊之助と同じく折り目正しい、悪く言えば融通の効かない若侍である。原作では総一郎のほうが食事をおごったりもするが、映画版の総一郎を「芯のある飄々キャラ」にしたことにより、より彼が名探偵っぽくなった。源孝志監督は刑事コロンボをイメージしたらしい。その和製コロンボが森田座の面々に聞き込みをおこなうが、彼らはなにかを隠している気配がある。誰かを、かばっているのかもしれない。