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『侍タイ』俳優も集結。『木挽町のあだ討ち』は、時代劇のさらなる起爆剤となるか?

2026.2.25

#MOVIE

長尾謙杜の「赤」の美しさ

文化七年(1810年)1月16日、江戸・木挽町。『仮名手本忠臣蔵』の千穐楽を終えたばかりの芝居小屋・森田座の前で、その仇討ち劇は起こった。真っ赤な振袖を着て女に化けていた討ち手は、美濃遠山藩の若侍・伊納菊之助(長尾謙杜)。対する仇は、博徒・作兵衛(北村一輝)。菊之助は振袖を脱ぎ捨て、真っ白な死に装束となる。やがて仇を討ち、首級を掲げて勝ち名乗りを上げる。このように書くと、凄惨な絵面を想像することと思う。だが、返り血をいっぱいに浴びた菊之助の姿は、見惚れるほどに美しかったのだ。

なぜ、菊之助がそれほどまでに美しかったのか。直木賞・山本周五郎賞のW受賞を成し遂げた永井紗耶子による原作小説における、森田座の女形・二代目芳澤ほたるの言葉を引用する。

「赤い衣装っていうのは、歌舞伎の女形にとっては特別だよ。『赤姫』って言葉を知っているかい。赤い振袖を着た御姫様役のことさ。(中略)いずれも舞台に出るなりぱっと花が咲いたような佇まいがあって、それでいて切ない愛らしさ」

「雪の夜でね、辺りは白く染まっていて、芝居小屋から漏れてくる明かりに照らされている。その中に赤姫が立っている。その姿がまるで一幅の絵のようでね」

「そうして遂に作兵衛を倒した菊之助さんが、血飛沫を浴びながら振り返った。その手には、血だらけの首級があるじゃないさ。怖かったよ。怖かったけど……やっぱり綺麗だなあと、しみじみと思ったねえ。見目はもちろん、佇まいも生き様も」

永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(2023年 / 新潮社)

ほたるが語る通り、菊之助は、赤が似合う美剣士でなければならない。衣装の赤が。そして、血の赤が。菊之助を演じた長尾謙杜は、原作のほたるがすっかり上げてくれたハードルを、軽々と超えてみせた。

討ち手・伊納菊之助(長尾謙杜)

赤い振袖を着て振り返ったときの愛らしさ。菊之助はまだ前髪の、あどけなさの残る若侍だ。演じる長尾謙杜の無垢で純粋な表情が、主に若い女性が着るべき振袖にもよく似合った。

振袖を脱ぎ捨て、白装束へと、娘から剣士への早変わりを見せる。それ自体、歌舞伎の演出のようでもあった。一瞬にして見た目が変わることにより、剣士姿の凛々しさも、より際立つ。なにより、返り血で白装束を真っ赤に染めた姿には、目を逸らせてはいけないような美しさがあった。ほたるが語った通り、そこには、若くとも侍としての生き様が垣間見えるからだ。

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