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ただ見るだけでは終わらない。「対話エレクトロニカ」で更新するアートの理解の仕方
ー世界には『アルスエレクトロニカ』(※)のようにアート×テクノロジーの有名な祭典がありますが、日本、あるいは渋谷でこの試みを行うことの独自性はどこにあると思われますか?
久納:アルスエレクトロニカは、アート / テクノロジー / 社会という3つのコンセプトを基軸に未来を考えるフェスティバルですが、日本の場合は、アートという入り口だけではない「クリエイティビティの高さ」や「純粋な技術への追求」が土壌にあると感じます。
また、特定の学問やジャンルに縛られることなく、多様なカルチャーが雑多に混ざり合っていることも日本の、特に渋谷の大きな魅力です。『DIG SHIBUYA』の面白さは、アートやテクノロジーの専門家ではない「たまたまそこに居合わせた人」までもが実験に巻き込まれ、体験を共有できる点にあるのだと思います。
※オーストリアのリンツ市を拠点に45年以上にわたり「先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像」を提案し続けている、世界的なクリエイティブ機関。『アルスエレクトロニカ・フェスティバル』は、1979年に電子音楽の祭典として始まった世界的なメディアアートの祭典。
ー日本では「アートは少し敷居の高いもの」という意識がまだ根強く、自ら美術館に足を運ぶ人は限られているかもしれません。けれど、渋谷の街そのものが会場であれば、日常の中で「たまたま居合わせる」ことが、そのまま参加への入り口になります。アートを特別なものと捉えがちな日本だからこそ、この「偶然の出会い」を設計することに、『DIG SHIBUYA』の大きな意義があるように感じます。
久納:そうですね。海外の、例えば美術館が日常の散歩コースにあるような環境では、確かにアートが生活に溶け込んでいます。ただ、そこで何より大切だなと思うのは、アーティストが提示したステートメントに対して、「自分はどう思うか」を誰かと喋る文化があることです。
アートは決して特殊な分野ではなく、みんなで一緒に考えたり、今までのものの見方を変えたり、新しい物事を体験を通して楽しむことができる「きっかけを生み出す装置」なんですよね。そうした視点が日本にも根付いていけば、もっと多くの人が「自分も表現に関わりたい、やってみたい」と思えるようになるはず。『DIG SHIBUYA』は、まさにそのための実験場でもあるんです。

2/15には、三島賞作家である中原昌也の全小説から学習した「AI作家」と対話しながら共著できる自由参加型ワークショップも。
ー実際に過去2回開催されて、参加者の声や反応はいかがですか?
宮本:神南小学校をはじめ、渋谷周辺の小学校のお子さんや先生方も、イベントを楽しみにしてくださっています。今回は公募団体のプログラムとして「無人オーケストラ」という展示があるのですが、これは部屋に並べられた24台のスピーカーから、オーケストラを構成する各楽器の音がバラバラに流れてくるというプロジェクトです。

宮本:スピーカーの周りをうろうろすると、ある場所ではバイオリンの音が聞こえ、別の場所ではチェロの音が聞こえる。そんな「オーケストラの中を巡る」新しい音楽体験ができるんです。このポスターは、子供たちが実際に楽器に触れながら絵を描くワークショップを通じて一緒に作り上げました。こうした活動を通じて、渋谷周辺にゆかりのある人々の間には、着実に『DIG SHIBUYA』が根付き始めていると感じています。

ーただ参加するだけでなく、より深い「体験」への工夫もされているのでしょうか。
宮本:そういった鑑賞の工夫として、今回は「対話エレクトロニカ」というプログラムを初めて実施します。これは専門のファシリテーターによる「対話型鑑賞」を取り入れたもので、参加者同士で感想を話し合いながらアートを巡る試みです。
ただ、『DIG SHIBUYA』が投げてくるボールって、内容のエッジが効きすぎていて、対話が盛り上がりすぎてしまうんじゃないかと少し心配しているんです(笑)。それくらいダイレクトで刺激的な表現がいっぱい投げ込まれますから。みんながどう捉えるかを私たち自身もすごく楽しみにしています。

2/13 fri~14 sat 10:30〜約3時間 at 渋谷区勤労福祉会館 2F 第2洋室 ※事前予約制。詳細はこちら
久納:最近は日本の美術館でもファシリテーターが介在することが増えましたが、新しいものに対して「自分の疑問に寄り添ってくれる存在」がいる鑑賞体験は、これからどんどん重要になってくると思います。
今の世界は先行きが不透明で、何が正解なのかが分かりにくい。だからこそ、どうやって自分自身で考えられるようにするか。そのヒントとして、対話型のツアーを通じて「新しい体験の仕方 / 理解の仕方」を街の中で提供することには、大きな意味があると考えています。