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「本当は、もっとハッピーで馬鹿馬鹿しい曲を作りたいです」
─それを実は、聴いてる僕たちの側は、坂本慎太郎にとっての大きな変化として受け止めている、という部分はあると思います。
坂本:そんな深いところまで聴いてるんですね。やっぱり、今こういうのは歌いたくないなというのを自分で排除していった結果の歌詞なので、今感じていることが滲み出たんじゃないでしょうか。傍観者の神の視点みたいなのが、自分の気持ち的には、あまりかっこよくない感じがしていたというか。
─それで言うと、AIの存在が神の視点みたいに当たり前に日常にある状況がありますよね。だからこそ表現としてより一層の当事者性を求めた、ということはありますか?
坂本:インターネットで検索して調べた結果が「嘘かもしれない」と考えなくちゃいけない時代になったじゃないですか。昔は、調べたら正しい答えが出てくる便利なものだったんだけど、今は、それが本当か嘘かをもう一段深く調べなきゃいけない。何を基準にすればいいかわからない。そんな時代にどうすればいいんだろうという感覚が、根底にかなりある気がします。
─“脳をまもろう”や“麻痺”の歌詞には、そういう感覚がすごく滲み出しているとは思います。
坂本:そう言われると、自分の社会に対する危機感がそのまま歌詞に出ているみたいで、ちょっと恥ずかしいですね。自分ではこれまでと同じように作ってたつもりですけど、やっぱりダメージを受けていて、そういう影響がだだ漏れになっているのかもしれないです。
─俯瞰して状況を眺めてる傍観者というよりは、この状況に身を置いてる人のアルバムになっていると感じます。
坂本:自分でもどこまで意識的にやってたかわかんないですけど、「傍観者っぽいのは何となくダサいな」って感覚は心のどこかにあったんでしょうね。それが出てるとしたらよかったです。
─『ナマで踊ろう』もリリース当時、かなりディストピア的と評されましたよね。でも、あれから時代はひと回りしました。
坂本:あの頃は今思えばまだ社会に余裕がありましたし、世の中の雰囲気が全然違いました。
─2000年前に滅びた世界を2000年後から見るSF的な設定でもありましたしね。現代社会のほうがもっとリアルにディストピアですよ。
坂本:あー、そうですね。昔、『空洞です』(2007年)から10年ぐらい経った頃に「今だったらああいうアルバムを作ろうとは思いません」みたいなことを言ったんですけど、今は『ナマで踊ろう』がそう言えるかもしれないです。ちょっと上から目線に感じるかもしれないですから。
─僕たちが生活者の実感として八方塞がりな状況なので、自分を投影してさらにヘビーに感じたということなのかもしれないですけど。だからこそ、ラストに“ヤッホー”があって、暗い時代の先にぼんやりと照らし出されている友達の姿を見つけて、ちょっと救われました。この作品は今という時代の実感と響き合っていると思います。
坂本:そういう世の中の雰囲気とは無関係にいられないんですかね。なるべくメソメソした感じにしないようにはしたつもりで、そんな中でも自分が楽しめるものはないかなと探す感じにしたかった。本当は、もっとハッピーで馬鹿馬鹿しい曲を作りたいです。能天気な曲が今かっこよく響くのなら作りたいですけどね。それが難しいんです。

坂本慎太郎『ヤッホー』

2026年1月23日(金)リリース
価格:2,600円(税別)
- おじいさんへ (Dear Grandpa)
- あなたの場所はありますか? (Is There A Place For You There?)
- 正義 (Justice)
- 脳をまもろう (Protect Your Brain)
- 時の向こうで (On The Other Side Of Time)
- 時計が動きだした (The Clock Began To Move)
- 麻痺 (Numb)
- なぜわざわざ (Why Do This?)
- ゴーストタウン (Ghost Town)
- ヤッホー (Yoo-hoo)