「恋愛をしてはいけない」と決められている立場の人が、本気で誰かを好きになってしまったら──。映画『恋愛裁判』は、日本のアイドル文化特有の「恋愛禁止」というルールを入口に、ひとりの少女が直面する現実を描く作品だ。
監督と脚本は『淵に立つ』(2016年)の深田晃司。2015年、女性アイドルがファンの男性と交際し、契約違反として所属事務所から損害賠償を請求されたという実際の事件から着想し、「恋愛禁止」そのものをテーマにした映画を撮りたいと考えたという。
『恋愛裁判』というタイトルだが、本作は法廷映画ではない。「恋愛禁止」をめぐって丁々発止のやり取りが繰り広げられるわけでも、その社会的な是非を問うわけでも、アイドル文化を断罪するわけでもない。そのかわりに流れるのは、もっと身近で静かな時間だ。
INDEX
「恋愛禁止」のアイドルの日常に入り込む恋愛
映画は暗闇から始まる。劇場の搬入口が開き、アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバーを乗せたバンがその前に停まるのだ。このファーストショットは象徴的で、本作はその後の約2時間にわたり、アイドル文化のバックステージに広がる「暗闇」に光を当てることになる。

ハッピー☆ファンファーレはただいま人気急上昇中、いわば「今が勝負どき」のグループだ。毎日が少しずつ忙しくなるなか、メンバーはチーフマネージャーの矢吹早耶(唐田えりか)から、パフォーマンスや私生活の詰めの甘さを指摘されている。
しかし、最年少メンバーの清水菜々香(仲村悠菜)は、事務所に内緒でゲーム配信者の男性と交際していた。センターの山岡真衣(齊藤京子)は、菜々香のデートをカムフラージュするために出かけた動物園で、中学時代の同級生・間山敬(倉悠貴)と再会した。

留学を経て大道芸人になった敬は、車で寝泊まりしながら人前でのパフォーマンスを続けていた。たちまち真衣は敬にひかれていくが、彼女が「恋愛禁止」のルールを知らないはずはなく……。

映画の前半で描かれるのは、アイドルという存在の二面性だ。ステージ上でのキュートで鮮やかなパフォーマンス、握手会やライブ配信で強調される疑似恋愛性に対し、彼女たちは舞台裏ではごく普通の少女なのである。アイドルであることに疲弊してもいないし、むしろ夢や憧れがまだ色濃く残っている。

だからこそ、恋は突然に入り込んでくる。それは彼女たちにとって、「恋愛禁止」への反抗ではない。もちろん、彼女たちはルールを知らないわけでもない(真衣ものちに「暗黙の」ルールとして知っていたと語る)。しかし、それでも感情は動いてしまう。
彼女たちの選択は、倫理的な問題に覚悟をもって対峙するものではない。むしろ、それはきわめて青春的な衝動だ。真衣が敬に惹かれるのも、敬がアイドルになる以前の真衣を知っていたからかもしれない。あまりにも無防備で、まるでふわふわとした夢のような時間を、監督の深田はファンタジックなラブストーリーとして演出している。
