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『記録をひらく 記憶をつむぐ』展
中島:次に取り上げたい展示は、東京国立近代美術館で開催された『コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ』展です。戦後80年ということで、戦争画がかなり大規模に展示されていました。僕はあそこまで一気に戦争画を観たことはなかったので、すごく印象的でしたね。特に戦争画は、戦後80年経ってもなおアメリカから無期限貸与されていることになっています。借りている戦争時の絵画を、我々はたまに覗き見ることができるという状況も含めて面白かったです。


南島:この展示では戦地ではなく銃後の女性や子どもたちがどういうふうに動員されていたのかが描かれていて、純粋に勉強になりました。
中島:そうそう。銃後を描いた絵画や、様々なおもちゃのパッケージ、雑誌のページとか、周辺資料が充実していたことで戦時下の大衆感覚みたいなものがわかりましたよね。動員も含めてですけど、大衆自身もはっきり言ってポジティブに戦争を望んでいたという空気を何となく感じてしまいました。椹木野衣の『戦争と万博』という本もありましたが、『万博』も大衆に支持されて、太平洋戦争もある種の大衆の支持があったということは、結構意識するところがありました。
池田:私は2章の「アジアへの/からのまなざし」が印象的でした。日本がアジアをどのように見てきたか、アジアがどのように日本を見返してきたのかみたいなことに加えて、そこで描かれなかったことや欠落してることもその章の中に盛り込んでいることが記憶に残っています。

中島:絵画として見た時に、戦争というすごくスペクタクルで派手な題材を得てしまった、近代以降の日本の画家たちのアンビバレントな気分みたいなものをすごく感じたんですよね。戦闘機や大空、広いアジアの戦場とかをパースをつけて描いていて、すごく晴れ晴れとしているし、はっきり言って気持ち良さそうなんですよ。でも同時にそこで描かれてるのは、やはり戦争という悲惨なものである、という相克みたいなものに引き裂かれた気分になりましたね。
杉原:それこそ、戦争画というものを最初に美術的に評価する先鞭をつけた、美術家の菊畑茂久馬さんが言われていたことですね。戦争画は敗戦後は戦時中の「恥部」のようにタブー視されていたけど、芸術と国家の論理がぶつかるところで描かれた藤田嗣治らの戦争画には、日本の近代絵画がそれまで到達できなかった凄みがある。その複雑な表現の問題を、イデオロギーで簡単に片付けるな、と。そうした菊畑さんの問題提起もあらためて思い出される展示だったかなと思います。
