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2025年アート振り返り①:『ライシテ』展『BENTEN2』など特筆の展覧会・芸術祭

2026.1.16

#ART

山城知佳子『Recalling(s)』2025年 / © Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist(右上)、 志賀理江子『褜がらみで生まれた』2025年 / ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist(左下)

2025年のアートシーンをライター、批評家、キュレーターが振り返る座談会。ライター、ラッパー、アーティストとして、多岐にわたり活動する中島晴矢が進行を務め、『美術手帖』『Tokyo Art Beat』などの美術誌で執筆や編集を行うアートライターの杉原環樹、2023年まで森美術館でアシスタントを務め、横断的なキュレーションに関心を寄せるインディペンデントキュレーターの池田佳穂、元横浜美術館の学芸員で批評家の南島興の4名が参加した。

今回の座談会では、2025年のアートシーンを大きく3つのテーマに分けて議論する。1つ目となる本稿では「2025年の印象的な展覧会・芸術祭」、2つ目は「戦後80年と『万博』」、3つ目は「同時代性・インディペンデント」について語ってもらった。2と3は、後日掲載予定。

弓指寛治『4年2組』展

中島:まずは「2025年の印象的な展覧会・芸術祭」について、杉原さんからお伺いしてもよろしいでしょうか。

杉原:展覧会という枠組みで捉えると少し異質ですが、今年一番印象的だったなと思うのは、『多摩の未来の地勢図』というアートプロジェクトの「アーティストが学校にやってきた」というプログラムで行われた、弓指寛治さんの一連の取り組みです。これは、いわゆる滞在制作、大人のアーティストが学校という場所を借りて制作するというものではなく、弓指さんが昭島市立光華小学校の4年2組に実際にクラスメイトとして通うという企画なんです。つまり、子どもたちと一緒に国語や算数の授業を受け、休み時間や給食を過ごすんですね。

杉原:学校側の話を聞く機会があったのですが、普段子どもたちが触れあう大人は、学校の先生と親くらいしかいないですよね。そして、その多くはいわゆる会社員。でも実はもっと色々な大人が社会にはいるわけじゃないですか。そんな「異質な存在」としてアーティストを招き入れることで、子どもや学校制度に広がりや余白を生めれば、という狙いもあったようです。2025年6月〜7月にはGINZA SIXにあるFOAM CONTEMPORARYで『4年2組』展という展覧会も開催されました。11月末には子どもたちと1年間の日々を13mの壁画に描き、光華小学校の教室で展示してプロジェクトは一旦は終了しています。

小学生と一緒に授業を受けるだけでなく、昭島の戦争遺構や、八高線列車脱線転覆事故が起きた場所を訪れたり。そういう日常の中にある災いの記憶みたいなものに、子どもたちと触れに行くプロジェクトでもあって。ソーシャリー・エンゲージド・アート(※)のラディカルな実践という感じで、とてもインパクトのある取り組みだったと思っています。

※公共領域との交わりを志向し、社会・政治的な問題に独自の仕方で取り組むことを目指す現代美術の社会的実践を指す言葉

中島:僕も光華小学校に行って取材したんですが、冷静に考えると30代のおじさんが小学生として過ごすって、親や教師は普通はなかなか許容できないはずで(笑)。でも、ちゃんとしたアーツカウンシルのプロジェクトであるというのと、何より弓指さんが持っている人間性、明るい人格に加えて、普段から作品のテーマにもされているお母様の自死であったり、そういった苦難を乗り越えた人だからこそできることなのかなと思いました。

『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着』

杉原:次に挙げたいのは、アーティゾン美術館で開催されている『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着』です。山城さんは沖縄を拠点に、志賀さんは宮城を拠点に東北で活動されてきた方です。2人に共通するテーマとしては、いわゆる中央と周縁とされる地域の関係や、戦争や震災のような災禍と個人の記憶、原発事故などを含む近代の影といった視点ががあると思います。

『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着』 / アーティゾン美術館

杉原:テーマの重なりも興味深いのですが、個人的にはその内容を見せるためのインスタレーションの巧みさ、迫力に圧倒されました。山城さんの展示自体は『Recalling(s)』というタイトルで、日本語だと「思い出す」といった意味ですが、お父様の記憶を起点に、視覚的な断片性と音の飛び交いが豊かな体験を作り出していて。4つのスクリーンが部屋の4方向に配置され、その間に無数の垂れ幕が下がっているため、視覚的にすべてを捉えきれない、けれど頭上を人々の声や音楽が飛び交うような構造が印象的でした。

志賀さんの展示会場では、壁全体が大きく蛇行していて、無数の言葉や写真が境目なく、絵巻のように配置されています。作品の出発点は、志賀さんが宮城県ですれ違ったデコトラが掲げていた「なぬもかぬも」という言葉——「何でもかんでも」という意味の方言だそうで。そしてその空間にはずっとカエルの鳴き声が響いていて、異界との境界を感じさせる一角があったりと、自分が街中にいることを忘れるような、闇や大きなものを前に足がすくむような体験の場が立ち上がっていました。

山城知佳子『Recalling(s)』2025年 / 『山城知佳子×志賀理江子 漂着』展示風景 / アーティゾン美術館 / © Chikako Yamashiro. Photo: kugeyasuhide

山城知佳子『Recalling(s)』2025年 / 『山城知佳子×志賀理江子 漂着』展示風景 / アーティゾン美術館 / © Chikako Yamashiro. Photo: kugeyasuhide

志賀理江子『なぬもかぬも』2025年 / 『山城知佳子×志賀理江子 漂着』展示風景 / アーティゾン美術館 / © Lieko Shiga. Photo: kugeyasuhide

志賀理江子『なぬもかぬも』2025年 / 『山城知佳子×志賀理江子 漂着』展示風景 / アーティゾン美術館 / © Lieko Shiga. Photo: kugeyasuhide

杉原:まだ言葉が追いつかないんですが、志賀さんがたびたび使っている言い方を借りるなら、お二人の展示とも、色々な視点が鑑賞者である自分の中にこだまして「乱反射」しているという表現がしっくりくるかもしれない。この経験の質感は、子どもたちとの記憶を絵と言葉で見事に展開していた、先ほどの弓指さんの『4年2組』展と僕の中では通じていました。

中島:色々な人の声もポリフォニックに響いているんだ。ご覧になった南島さんはどうでしたか?

南島:志賀さんは、大きく出力した写真に手書きで取材記録などを書き記していく形式の作品を、2024年の『横浜トリエンナーレ』でも制作されていました。字を書くことは単に情報を伝えるだけではなく、ある出来事を自分の内側に刻んでいくためのパフォーマンスや儀式的な側面もあるのかなと感じていたのですが、今回の展示ではその極みみたいなものが観られたと思います。テキストを読みながら展示会場を進むと、場の磁場のようなものにどんどん引きずり込まれていく感覚がありました。

志賀理江子『なぬもかぬも』2025年 / 『山城知佳子×志賀理江子 漂着』展示風景 / アーティゾン美術館 / © Lieko Shiga. Photo: kugeyasuhide

中島:僕の生徒もこの展示を観ていて、2時間くらい授業に遅れてきたんですよね。ハードだったらしくて、がっつり食らってすごく思いつめた表情で遅れてきたんで、僕も観に行かなきゃなと思っていました。

池田:私もまだ観れていないのですが、とある写真作家も、この展示を観てすごく食らっていました。「写真作家でもあれくらいインスタレーション展開を考えて、空間的に支配することができるのか」と悩み始めていて。志賀さんのような演出の仕方は、今後写真家たちが自分たちの作品を見せる上での選択肢になりそうだなと想像していました。

『原良介 サギ子とフナ子 光のそばで』

中島:次は南島くんにご紹介いただきます。

南島:何がいい展覧会かという話もあるんですが、「こういう展覧会ができる美術館があることって大事だな」という視点で選びました。一つ目は平塚市美術館でやっていた『原良介 サギ子とフナ子 光のそばで』展です。絵と陶芸で空間を作っていくような展覧会でした。

原良介 サギ子とフナ子 光のそばで』 / 平塚市美術館

南島:原さんは絵を描く中で図と地やイメージと余白を等価に扱うんです。シュルレアリスム的な感じでものの大小を入れ替えて、デペイズマン(※)的な要素を取り入れたりすることもあります。本展では、その作品の中に見られた特徴が展示空間の構造そのものにも反映されていたんですよね。おそらく原さんの中で、作品の中でできることと展覧会できることには区別がなくて、両方とも同じように操作できるものなんだろうと思います。そういった原さん自身がもともと持っている空間認識みたいなものが表れている展覧会で、ただ単に作品が集められたのではなく、美術館で行われたことの意義を強く感じました。

※日常的な物事を本来あるべき場所や文脈から切り離し、意外な場所に配置することで見る者に強い違和感や衝撃、新たな意味合いを与える、シュルレアリスムにおける重要な表現技法

原良介『サギ子』(2024年)
『原良介 サギ子とフナ子 光のそばで』展示風景 / 平塚市美術館

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