INDEX
パートナーへの向き合い方がミクロな視点での「多様性」につながる
今作でジュディとニックは、指名手配犯のはずだったヘビのゲイリーの切実な事情に気づき、警察官であるにもかかわらず彼に協力するため「逃亡犯」となってしまう。「警察捜査もの」だった前作の特徴を受け継ぎつつも、「逃走劇」だからこそのスリルとサスペンスが付け加わっているし、その切迫した状況だからこそジュディとニックの関係性が「少し進む」のだ。

というのも、物語の序盤にパートナー同士のセラピーでの提言を踏まえたためか、ニックは「皮肉屋でありすぎてしまう」自分を少し反省しており、ジュディはその反対に「生真面目さを少し逸脱した」言動をしている。意識的にせよ無意識的にせよ、お互いに「パートナーに歩み寄る」ような姿勢に、2人の絶妙な関係性を思ってニヤニヤしてしまう。

その上で、ジュディは街の平和という大義というよりも、目の前のゲイリーという困っている人を助けるための行動をするのだが、ニックはその「自分の命よりも困っている人を助ける方が大切」とでも言うようなジュディの猪突猛進ぶりを心配するあまり、彼女の行動そのものを否定する言葉を言ってしまう。このことに限らず、「お互いの価値観が違うこと」は、どんなパートナーにもありうるし、決定的な亀裂にも繋がりかねない。
ただ、本作の物語はジュディとニックが胸に秘めていた思いをお互いに伝え合うという展開を持って、その「パートナー同士の違い」を肯定する。相手を思っての言動も、自分がどう感じているか、どれだけ大切に思っているかということを言葉にして伝え合うから、お互いの考え方や感じ方の違いに気づくことができ、その気づきによってパートナーとしての関係性がより深まっていくのだ。
しかも、それはジュディとニックだけでなく、いろいろなパートナーの形があることも、同じ警察として働く他のキャラクターたちの存在を持ってはっきりと見せるのだ。

前作では「ズートピア」という舞台を通して、種族の違う生き物同士での多様性のあり方を「マクロ」な視点から描いていたが、今作では「パートナーや身近な大切な人」といった「ミクロ」な視点で多様性を描き出している。そのマクロからミクロへの移行が見事で、「大きな理想を掲げてもすぐには実現できないかもしれないけれど、まずは近くにいる誰かを思いやることから始められる」という、誰もが実践できる希望を描いている。
また、この作品の結末は「陰謀を暴けば全部解決」と思えるが、歴史の真実を明るみにしようと、命をかけて立ち向かうジュディたちに対して悪役が捨て台詞として吐いた「誰も君たちのことなんて信じない。何をしたって無駄だ」という言葉に対するジュディの「いいの、ゲイリーのためだから」という返答には、世界をより良くするために事件を解決しようと動いていたはずのジュディが、ゲイリーという個人の気持ちに寄り添う言葉を伝える。
この場面でも「そう簡単には世界は変わらない、だけど身近な大切な人のための行動はできる」ことがちゃんと示されていたと思うのだ。