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9年ぶりの続編『ズートピア2』が大ヒット。ディズニーはなぜ今の時代に続編を作った?

2025.12.11

#MOVIE

ヘビのゲイリーが示す「排除」の問題

しかし、今作の『ズートピア2』では、前作のテーマであった「差別と偏見」と地続きの問題を提示することで、蛇足になってしまう可能性があるという問題を見事にクリアしていた。はっきりと言えば、今回のテーマは「分断と排除」に対する抵抗のメッセージだ。

今回の物語の発端は「ズートピアにいないはずのヘビが現れたこと」であり、その先で「爬虫類たちがズートピアから排除された理由を知る」というのが象徴的だ。「そういえば前作から多種多様な動物が存在するはずのズートピアにいたのは哺乳類ばかりで、爬虫類がいなかったじゃないか」と、観客もまた「無意識の排除」に気付かされるという、ある種のメタフィクション的な構造がある。

ジュディとニック、そして新キャラクターであるヘビのゲイリー

そもそもヘビは種類によっては「毒」を持ち、旧約聖書におけるアダムとイヴの物語では「ヘビにそそのかされて知恵の樹の実を食べた」ばかりか「アダムはイヴに、イヴはヘビに責任転嫁をして言い逃れをした」という描かれ方をしたこともあり、「悪魔の化身」あるいは悪魔そのものと捉えられる固定化したイメージが生まれた。だからこそ、本作で健気なキャラクターとして描かれるゲイリーは、その固定観念を反転させる役割を担っている。

物語としては、ズートピアにはもともと爬虫類が住んでいたが、ある出来事を持って、後から権力を持った哺乳類によって「爬虫類が危険な存在」であるという風潮が広められてしまう。その偏見により、爬虫類は分断されたコミュニティに追いやられてしまったという過去が今作で明かされる。

こうした爬虫類や、ヘビの排除は、爬虫類たちが劇中で暮らしている地域の風土が明らかにラテン系をモチーフにしていることからして、やはりアメリカの開拓史、というよりもヨーロッパ諸国による植民地支配の歴史の反映にも思える。

こうして描かれたシーンは、先住民が次々と惨殺される実際の事件を題材とした映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023年)にも重なって見え、寒い地域からの膨張主義は、ロシア帝国の南下政策にも思えたりと、そうした社会問題を子どもにもわかりやすい寓話として示していることも、本作の大きな意義だろう。

また、字幕版でそのゲイリーを演じるのは、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年)のキー・ホイ・クァンだ。アジア人であるがゆえに、俳優のキャリアとして長い不遇な時間を過ごしてきたが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2023年)でアカデミー助演男優賞を受賞した彼をキャスティングしたことも、ゲイリーのキャラはもちろん物語にシンクロしているように思えた。

さらに、前作では主人公の1人であるニックがキツネであることが、やはりテーマである差別と偏見と深く結びついていた。童話ではキツネは「ずる賢い」キャラの象徴として扱われることもあり、ディズニーアニメでも『ピノキオ』(1940年)などでキツネは悪人として描かれていた。前作のニックは劇中で偏見と差別にまつわる悲しい過去を持っていたからこそ、「冷笑的な生き方をする」人物となったことも示されていた。今回のゲイリーも「なぜその行動をするのか」ということを想像すると、より味わい深くなるだろう。

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