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ジャンルも時代も越える、「エラー」に人間の美学を見出すKMの音楽哲学
こうしてKMはビートメイクを本格化させていく。彼の音楽は深く広くジャンルを越境してフロアを沸かせてきた、DJとしての経験が生きている。そこにも先輩たちの影が見え隠れする。
KM:DJでは、ジャズからディスコ、ファンク、ハウス、エレクトロ……そこにトップ40のエド・シーランやジャスティン・ビーバーまで掛けてた。ヒップホップは5%くらい。ヒップホップのプロデューサーとして違うジャンルを取り入れるのは、もしかしたら他の人よりも悩まずにアイデアを出せるかもしれないです。Radioheadの『Kid A』のトラックにフューチャーのラップを乗せるとか。普通はこうはならない。10代だったからどこ良いのかがわからなかったけど、先輩たちからRadioheadやPortisheadを「聴け」って言われたあの時期がなかったら、ここまで詳しくないと思います。
わかる、わからないにかかわらず、アンダーグラウンドからオーバーグラウンドまで聴き、プレイした。その柔軟さこそが、KMの強みだと確信した。理不尽な経験が生きている。その音楽性は批判を受けることもある。ヒップホップではない、そんな批判だ。しかし、KMは文脈を大事にしていないわけではない。
KM:最近、エレクトロのこの音がリバイバルしてるように感じてて、その音を別のジャンルに移植することはあります。でも表面的にやっているわけではないんです。文脈を大事にしてるし、日本人の俺が触れちゃダメなことはしない。そういうことがアーティストの寿命を守ると思う。

時に批判を受けながらも、KMは自分の音楽を貫いた。そんなKMに、今回の取材で聞きたいことが一つあった。AIの台頭が音楽制作に与える影響だ。
KM:そういうものがあるのかどうか、わからないんですけど……たとえばAIが今流行ってる曲のコード進行を解析して、BPMや音色なども提案してくれるようになると思うんですよ。そこまでのことって努力をすれば人間でもできることなんです。たとえば、XXXテンタシオンのあのとんでもないミックスは、彼が登場する前はAIにはできなかったと思います。あれは前例のないエラーなんです。そもそもヒップホップやテクノってエラーだらけなんです。正しくないミックス、教科書にないミックスが高揚感につながったり、感情の爆発が感じられる。それって人間にしかできない。
彼は東京のクラブシーンを20年以上にわたり見てきた。
KM:16歳くらいからDJを始めて、もう3周くらい世代が入れ替わっている。最後に誰が残るかといえば深い人なんです。
この言葉に、KMのアーティストとしての信念が宿っているように聞こえた。
