11月9日(日)、NiEWが主催する音楽イベント『exPoP!!!!!再会 2025』が開催された。『exPoP!!!!!』は2007年に始まった無料音楽イベントで、基本的には月に1回、渋谷のライブハウスSpotify O-nest で開催されている。18年目となる今年、その特別編として渋谷の全7会場を舞台としたサーキット型の大規模有料イベントとして開催されたのが、今回の『exPoP!!!!!再会 2025』である。
舞台となった会場は、Spotify O-EAST 、Spotify O-WEST 、duo MUSIC EXCHANGE 、WOMB LIVE、clubasia 、7th FLOOR 、そしてもちろん、Spotify O-nest の全7会場。この記事では、その当日の模様をレポートする……のだが、レポートと言っても僕1人 で会場を回ったので、当たり前だが、全アクトを観れているわけではない。
なので、「ひとりの音楽好きはこんなふうに『exPoP!!!!!再会』を回ったぜ」くらいの体験記として読んでほしい。ただ、それでもレポートなのであまり偏りが出ないように、すべての会場を回り、各会場で1組ずつ、(完全ではないけれど)なるべく、フルでライブを観るようにした。
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初出演も「再会」も入り混じるラインナップ
イベントは13時にスタート。「やっぱり『exPoP!!!!!』と言えばO-nestでしょ」ということで、まずはO-nestに行き、風呂敷のライブから僕の『exPoP!!!!!再会』はスタートした。

風呂敷は、uminecosoundsというバンドでも活動していて、幡ヶ谷のカレー屋さん「ウミネコカレー」の店主でもある古里おさむによるバンド。いきなり「もう、この日のベストアクトなんじゃないか」と思うくらい素晴らしかった。生活からまっすぐ歩いてロック、という質感の音楽。生活と言っても「豊かで丁寧な暮らし」みたいな幻想じゃなくて、痛みとか、忘れたと思ったのに思い出してしまうこととか、食べて排泄することとか、たくさんの喜びとか、手放せない祈りとか、そんな様々が複雑に混ざり合うものとしての現実の生活と、このロックは地続きにある。そんな感じがした。



風呂敷のライブをフルで観た後はduo MUSIC EXCHANGEに移動して、浦上想起・ミニマム・コントロールを観る。『再会』と銘打ちつつ、この日は『exPoP!!!!!』初出演のアーティストもたくさんいるようで、浦上想起もその1人。僕は、彼のライブパフォーマンスを観るのはこの日が初めてだった。浦上がキーボード、そして、ギターとドラムを招いたトリオ編成でのライブで、3人全員がお揃いのキャップとサングラスを身に付けている。ジャズ的なフリーキーさもありつつ、浦上の歌に郷愁を感じさせる儚さと優しさがあって、そこにとても魅了される。演奏は尖っているのに、浦上想起の人柄だろうか、魅惑的なまろやかさがアンサンブル全体を包み込んでいた。

その後は、Maika Loubtéのパフォーマンスを観るためにWOMB LIVEへ移動。会場の扉を開けば、それまでの2アクトとはまったく違うハイパーな照明が空間を照らし出していて、ステージ上ではMaika Loubtéがしなやかに体を躍らせながら歌っている。僕もビートに合わせて体を揺らす。

12月に出る新しいアルバムのタイトルは『House Of Holy Banana』と言うらしく、そのアルバムからの新曲を披露する前に、MCでマイカは「本当の居場所がわからない」という感覚について話していた。居場所がわからないからと言って、自分の「ポジション」ばかりを追い求めてしまっては本末転倒なのだろう。マイカの言葉を聞きながら、僕の頭の中には「帰る家を探しているんだ」と言っていた『No Direction Home』のボブ・ディランと、“Democracy”で「私は今夜、右でも左でもなく、家にいる」と歌ったレナード・コーエン、そんな大好きな2人 の顔が浮かんだ。印象的なライブだったので、帰りに物販で不思議なステッカーを買う。

WOMB LIVEの外に出ると、雨で湿った渋谷の路上。そこをてくてくと歩いてclubasiaに行き、和久井沙良のライブを初体験。普段は3人以上のバンドやデュオなど様々な編成でライブをやっているそうだが、この日はソロ。しかし、単なるピアノ弾き語りという形ではなく、エレクトロニックなサウンドも駆使した目まぐるしいパフォーマンス。その奔放な自由さと、あるいは個であるがゆえの悲しみで、いろんな境界線を越えていき、たったひとつの音にもたくさんの歴史を刻み込める才能なのだと痛感する。

『exPoP!!!!!』に初めて出たのが2023年らしく、それまでライブで演奏する機会があまりなかったようで、鮮烈な体験だったというその初出演時のこと(映像はこちら)を振り返って話す姿も印象的だった。音楽を演奏するとき、観客に話しかけるとき、本当にコロコロと表情が変わる人で、そういうところもよかった。

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downy、Qoodow、阿部芙蓉美、ライブハウスの扉を開くたびに音楽性を横断
13時からのスタートで、予定されているラストは22時近い。ずっと立ちっぱなしだとさすがに足腰が爆発してしまう。というわけで、和久井沙良のライブを観た後は1度会場から離脱し、外でコーヒーを飲んだ。会場に戻ってきてからはO-WESTでdownyを観る。

重く、鋭利なアンサンブルと、人間の歌。そう、人間。downyの音楽はとても「人間」という感じがする。過剰にエモーショナルになることもなく、わざとらしい言葉を歌うこともなく、極めて醒めながら、「人間たちがそこにいる」ということを感じさせる。
バンドの演奏とVJによる映像演出が重なることで生まれる独創的な音楽体験。メンバーのシルエットにも静かな迫力が宿る。後で調べたら今年で結成から25年だという。もちろんプレイヤーとして、人間としての成熟はあるだろうが、downyというバンド自体には特別な「鮮度」がずっと保たれているような気がする。その鮮度は、言い方を変えれば、「尊厳」でもあるのではないかと思う。

O-WESTでdownyを観た後は7thFLOORで梅井美咲とコラボするというゆっきゅんのライブを観ようと思って向かったのだが、道路を挟んだ会場の向い側まで人が並んでいて入場規制ができているようだったので、並んでいる時間が勿体ないと思い、断念。再びO-nestに行って、初体験のQoodowのライブを観ることにした。

会場の扉を開いて、その音を聴いた瞬間から「来てよかった!」と思う。瑞々しくて鮮やかなギターのサウンド。リズムはトライバルな踊れる感じがあったり、クラウトロックのように直線的になったり、曲によってバリエーションがとても多彩。歌には儚さがあるが、その儚さを、とても大切なものとして聴き手に届けようとするような覚悟を感じた。

一気に大好きになったQoodowのライブを最後まで観た後は、「なるべくフルで観る」という制約を持たせず、次に行く予定のO-EASTでのライブが始まるまで他会場をうろつく。観れたのは少しの時間だったけれど、バイオリンと2人でduo MUSIC EXCHANGEのステージに立っていた阿部芙蓉美の歌声は、あまりに巨大なインパクトだった。


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深い没入感と、40分に及ぶ即興演奏
そしてO-EASTに移動し、OGRE YOU ASSHOLEのライブを観る。O-EASTのフロアに入ったときにはまだセッティング中だったが、4人の機材の間隔の近さにまず驚く。この「近さ」が、彼らのアンサンブルにとって大切な要素の一つひとつなのかもしれない。そしてひとたびライブが始まれば、演奏に完全に惹き込まれた。「長いトンネルを抜けると雪国であった」とでもいうような、曲の始まりからぐーっと深く没入していき、ハッと気が付いたらとんでもない景色が広がっている感覚。気づけば自分も踊っているし、周りの人たちもめちゃめちゃ踊っている。

1曲ごとに自分という存在の「内」と「外」を往ったり来たりするような、そんな「没入と解放」を繰り返すそのパフォーマンスは、どこかで「個人と社会」というものの関係を示唆しているようでもある。

OGRE YOU ASSHOLEのライブを最後まで観た後は、お腹が減ったので1度、会場の外に出て腹を満たす。その後、7thFLOORでSHIN KOKAWA sublime bandを観る。元jizueのドラマーである粉川 心と、トランペットの類家心平、ピアノの魚返明未が繰り広げる約40分間の即興演奏。ドラムも、トランペットも、ピアノも、こちらの固定観念を打ち壊すような演奏を繰り広げながら、大きなうねりを生み出していく。

3人の演奏が映し出す光景は、ときに激しい荒波のようであり、ときに切ない夕景のようでもあった。演奏している3人の間にはどんな景色が見えているのだろうか。目を凝らすようにして他の2人のプレイを見つめたり、まったくもって自分の内側を見つめているようだったりする3人の演奏する姿を観ながら、そんなことを感じる。


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一日の終わりに届けた強い意志とメッセージ
約40分間の即興演奏をやり切って、息が上がった状態でステージを離れた粉川 心の姿を見届けた後は、O-EASTに移動してGEZANを途中から観る。

美しいライブ。ステージの上で、マヒトゥ・ザ・ピーポーは「言葉は天国に持っていけないから、生きてるうちに使わないといけない」と言っていた。

GEZANを最後まで見届けて、O-nestで既にライブを始めているSuiseiNoboAzを観に行く。O-nestの扉を開けると、名曲“3020”を演奏していた。アンコールで石原正晴は「俺たちの音楽は無意味だ」と言い、「無意味なものを楽しむことは、戦争などへのひとつの抵抗なんだ」というふうに言っていた。

たとえば「無力」という言葉は、本当に力がないのではなく、「無力」という言葉だけに宿る力がある。「無意味」という言葉もそうだと思う。一つひとつの言葉を吟味し、そこに迷いも確信も抱きながら、それでも覚悟を持って言葉を言ったり書いたりする人が、その言葉を世界に放つとき、「無意味」という言葉の奥にだって強い意志が芽生えている。その意志をちゃんと感じ取りながら、僕は「無意味」という言葉に向き合いたいと思う。

SuiseiNoboAzを最後まで観て、帰路につく。『exPoP!!!!!再会』を締め括る最後のアクトの場所がO-nestでよかったなと思う。僕はコロナ禍に入るまで、たぶん3、4年くらいの間だろうか、ほぼ毎月『exPoP!!!!!』のレポートを書かせてもらっていた。その前には1人の客として参加したことも何度もあった。思い出深いライブをたくさん観たイベントである。本当に素晴らしいイベント。長く続いてほしいと思う。