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『じゃあ、あんたが〜』最終回で復縁を解消した理由
『じゃあ、あんたが〜』の鮎美は、そこまで自覚的ではないが、「女性が料理を作って当たり前」という勝男の姿勢には疑問を感じたからこそ、別れを決意したのである。とはいえ、彼女の場合は、まだ揺れている。その理由は、男性に悩まされた家族を見て、愛される自分になることが幸せであると考えてきたからだ。鮎美と勝男は、旧来的な「持ちつ持たれつ」もっと言えば「共依存」の関係にあり、家父長制を利用して幸せになろうとしていた2人なのであるから、鮎美も勝男のように、徐々にその考えから脱却していく姿が描かれるわけであり、そのスピードはある人にとっては、のろのろと見えたかもしれない。

しかし、『じゃあ、あんたが〜』の最終回には、2人が更に変化する過程がうまく描かれていた。鮎美と勝男は、紆余曲折あって一度は元サヤに戻るが、勝男は、自分で事業を始めようとする鮎美に「俺、そういうの得意だから」となにかとアドバイスをしたがってしまい、『こっち向いてよ〜』でのキーワードでもあった「守りたい」に匹敵する「支えたい」いう言葉を、最終回にして言ってしまうのである。


その結果、2人は別れを決意する。勝男は、できることをしてあげたいと思っただけなのだろう。しかし、鮎美は、支えられるよりも、自分の足で歩みたいと考えたのだと思う。彼女の「誰かの後ろじゃなくて、横に立てる自分でいたい」というセリフがすべてを物語っていた。ラストシーンで、高円寺の駅前の三叉路を2人がそれぞれの方向に歩んでいく姿はすがすがしいものがあった。

勝男のことを、会社の後輩の南川あみな(杏花)は、「人は変われるんだと思った」と語る。確かに、「料理は女が作るもの」と考えていた勝男が、自分で筑前煮を作るところから始まり、自身の「生活」を自分で整えようとしているという意味では「変わった」。もう彼は、「料理は女が作るもの」とは考えてもいないだろう。しかし、私は、勝男は最後の最後まで、仕事に関してもアドバイスを繰り返す様子や、鮎美に対して、家賃は払うし、生活費は稼ぐし、「なんかもう、支えたい……全部」と言っていたりする姿から、正直、まだまだ彼の中に性別役割分業が残っていることを見たのである。
でも、人はそんなに急に全て変われるものではないし、変われない部分に勝男らしさがあるのかもしれない。先走って支えようとしたことに対して、素直に謝るシーンもあった。勝男はこの先も様々なことに気付き、もっともっと変わっていく余白があるのだとも思えた。それだけ勝男の中の「刷り込み」の量が膨大であったことを伺わせる。

現実社会において、人は、自分を変えようとする外圧に対しては敏感で、あまりにも外から変えろというメッセージを受けると攻撃的になることもあるかもしれない。あまりにも長年、旧来的な価値観に晒され続けているとと、それが良くない意味での血肉になってしまうこともあるだろう。そんな中、勝男は自分で右往左往しながらかっこ悪くても変わろうとした。しかし、変わるということは本人の持った本質を変えろというものではないと考えれば楽になるのではないか。このドラマで勝男が変わった部分も、彼の内面ではなく、価値観という後からインストールされたものに対してなのだから。
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』
TVerでは1~3話・最終話、 U-NEXTでは全話 配信中
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』Blu-ray&DVD2026年3月27日に発売決定
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antaga_tbs/