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ろう者の音楽はろう者を交えてつくる。当事者性を志向した表現
―今作で皆さんが、どんな挑戦に取り組んでいるかを教えてください。
森山:私は先ほどお話した1枚の絵をスタート地点に、スケッチを絵本のように描き続け、打ち合わせを重ねていきました。その中で、ストーリーも変化し、次第に物語の核が見えてきた。


森山:ただ僕が決めた枠内で演じてもらうのではなくて、集まったメンバーをどう活かしていくかという視点を大事にしたいんですね。なので、最終的なキャストとスタッフに合わせて物語を編み直し、やっと今の形にたどり着きました。そして話し合いを続ける中で、栗栖さんからラテン語の「ムジカ」という言葉が出てきて……ここはぜひ、栗栖さんからお話いただけますか?
栗栖:開次さんが書き進める中に、聴力を失いながらも音楽活動を続けたベートーヴェンをモデルにした、「ベン」という登場人物が出てきたんですね。
その中で、耳が聴こえる開次さんが、ベンという役を想像で描いて演出してしまうこと、同じく健常者である蓮沼さんがそうした作曲家を想像しながら音楽をつくってしまう流れに、私自身疑問がわいてきました。文化芸術において、当事者性というものを意識してつくるべきではないか? と。
―歴史的に抑圧されてきたマイノリティの文化を、マジョリティが取り入れて消費する行為、いわゆる「文化の盗用」に近い行為と取られる懸念ですね。
栗栖:はい。「これをどうやってクリアしよう」と悩みながらリサーチを続けていた中で、Sasa-Marieさんという、ろう者の詩人であり、聴覚障害者の音楽鑑賞環境等について研究されている方が、カナダで学んできた「サインミュージック(手話を用いて音楽を表現するパフォーマンス)」の報告会に足を運びました。その中で「MUSIC」はラテン語のムジカ(MUSICA)が語源で、もともとは詩、ダンス、数学、宇宙といったさまざまな意味を含むものだったと知りました。
―現代社会の「音楽」の概念は、文明が発達するにつれて意味が狭められていた。
栗栖:そうなんです。結果、原初は音楽を一緒に楽しめていたかもしれないろう者が、次第に音楽を共有できなくなっていった……という話を聞いて、「私たちがこの舞台で描くべきものはムジカだ」と開次さんに提案しました。そこから「ベンがつくる音楽は、ろう者にとっての音楽にできないか?」というアイデアが生まれたんです。
そこで蓮沼さんには、「聴者が書く音楽とろう者にとっての音楽を、舞台上で対等に扱えないだろうか」とご相談しました。そして、Sasa-Marieさんにも入っていただき、サインミュージックを取り入れながら、聴こえない人から生まれる表現や文化を舞台にのせて、ムジカにまで発展させようと試行錯誤しているところです。

森山:そもそも蓮沼さん自体がムジカな方ですからね。