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テイラー・スウィフト『The Life of a Showgirl』レビュー 賛否両論の問題作に隠された仕掛け

2025.11.10

#MUSIC

タイトル曲“The Life of a Showgirl”の、驚く「仕掛け」

と、ここまで長々と書いてきたが、それらを全てを差っ引いてもこの作品の一番の肝だと言えるのが、ラストのタイトル曲だ。序盤は物語仕立てになっていて、あるショーガールに憧れた主人公が、その本人に「ショーガールの人生は、得るものより失うものの方が多い」ことを諭されるも、最後には主人公自身もその人生を引き受け自らも売れっ子のショーガールとして舞台に立つようになる、というストーリーがセリフや語りのような歌で展開されていく……のだが、そのまま聴いていると不意に音質が変わり、気づけばテイラー本人のライヴ音源のMCにシームレスに接続されて、アルバム自体も幕切れを迎えるという仕掛けが待ち受けているのだ。

これには最後の最後に流石にドキッとさせられてしまった。というのも、このくだりはこの曲に客演しているサブリナ・カーペンターとの『エラズ・ツアー』での実際のやりとりの録音で、当然だがとても生々しくリアルだからだ。冒頭で書いたように、彼女自身の実際を歌っていることが自明でありながらどこか虚像を見ているようなムードが漂い続け、虚と実の境界が曖昧模糊とした本作の最後にこうして唐突にリアルな手触りが立ち現れることで、その虚実の混ざり合った様それ自体が、現在のテイラーの「リアル」だということを端的に提示しているからである。作中唯一この曲だけが原点回帰的なカントリーポップ調で、アコースティックな音像であることも示唆的だ。

このナンバーにある<(自分のようなショーガールは)つけまつげを剥がすみたいに捨てられる>というリリックは、そんな本作の本質が凝縮された最も秀逸なフレーズだ。これは、「自分を飾り立てる使い捨ての人工的なモノとは、実は他ならない自分自身なのだ」という比喩にもとれ、皮肉の効いた自己言及が抜群に冴えている。嘘と真実が混ざり合い転倒し、どちらがどちらだかわからなくなるのがポップスターとその像が孕む、危険と紙一重の面白さではあるが、今の無敵のテイラーはそんな自身をもエンターテイメントに仕立てることができてしまう。本作はまさに頂点に君臨する彼女にしかできない、メタ的な自己言及作品なのである。

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