10月3日(金)にリリースされたテイラー・スウィフトのニューアルバム『The Life of a Showgirl』が配信リリースされた。日本盤の発売も12月12日(金)に決定し、大きな話題となっている一方、その内容には賛否が集まってる。
テイラーは本作でなにを作り出そうとしたのか。音楽ライターの井草七海が紐解く。
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「無難すぎる」と酷評された、キャリア最低評価作
駄作か、問題作か──。10月3日(金)にリリースされたテイラー・スウィフトのニューアルバム『The Life of a Showgirl』は賛否両論の作品だ。主要音楽メディアの批評やレーティングを集計するサイト「Album of the Year(AOTY)」では平均60点と彼女のキャリアの中では最も低評価で、創作アイディアの枯渇を指摘する声も少なくない。正直なところ、エレクトロポップ~ポップロックテイストで無難にまとめられたアレンジには確かに散漫な印象がある。良く言えば耳触り軽やか、悪く言えば引っかかりなくサラッと聴き流せてしまうような、「ありがち」で「普遍的」なアルバム、と言いたくなるのも同感である。ただ、それをテイラーがあえて狙っているのだとしたら?
テイラー・スウィフトをめぐる最近の話題といえば、何よりも、NFL選手トラヴィス・ケルシーとの婚約発表に尽きる。これまでも様々な恋愛遍歴を経てその多くが世に知られ、またその経験を(意図的でもそうでなくても)仄めかすようなリリックで注目を引きつけてきた彼女ではあるが、実際に今誰と交際しているかを自身で公言してきた訳では必ずしもなく、噂やパパラッチによって膨らんだ彼女の私的なストーリーへの注目が、リスナーにリリックの行間を読ませて想像を掻き立ててきたという方が正しい。ところが今回はというと、ケルシーのポッドキャストで新曲を発表し、おまけに婚約まで発表した上でのリリースである。こうなってくるともう誰が聴いても、作中に度々登場するプライベートを支えてくれる相手やその陶酔的な関係がケルシーについて歌っていることは明らか。つまり、自ら私的なストーリーをオープンにしそれを意図的に作品に自己利用してストーリテリングしているのが、これまでの彼女と違う点だ。そしてそれはどこか、セルフパロディ的にも思えるのである。