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街と大工の関係と重なって見える、総合診療医の姿

大工である彼は、地域の人たちの家を作ると同時に、街全体を見つめていたのである。そして、家を建てたら終わりではなく、模型を通して家々を見渡し、その後の手入れを怠らない。街の至るところに彼が作り、愛した家があり、人がいる。だから、彼が亡くなった後、滝野は坂の上で街を見つめながら「でも辰さんはいるんです。この街のいろんな場所に。私の中にも」と言う。
その街と大工の関係は、患者たちと総合診療医の姿とどこか重なるものがあった。第2話で徳重が「最初から最後まで、患者さんのこれまでもこれからも全てを診たい」と願い、青年・拓のその後を気にかけたように、患者を診るだけでなく、「一歩引いて、マクロの視点で」その人生を見る。言葉にならないままだった、本人すら気づいていなかった心の声を聞く。さらに言えば、「街との会話」をし始めたら止まらない徳重は、患者だけでなく街そのものを「診て」もいるのかもしれない。
第7話で師匠・赤池の住む離島に「帰った」徳重は、「若先生」としてかつて診た患者たちと言葉を交わすが、患者1人1人の持病を忘れていない彼は、離れた場所に住んでいても患者の「これから」を常に案じている。赤池と島の人々の関係もまた、大工である辰と街の人々との関係に近いものがあるように感じた。そして、第6話が描いた街の大工の死と消えない思いは、そのまま、総合診療医のこれまでとこれからに重なってもいるのである。