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トム・クルーズ40年の歩み。映画研究者・南波克行が語る

2023.7.19

#MOVIE

©2023 PARAMOUNT PICTURES.
"Jack Reacher- Never Go Back Japan Premiere Red Carpet- Tom Cruise (35338493152) (cropped)" byDick Thomas Johnson from Tokyo, Japanis licensed underCC BY 2.0.

ベテランと組む20世紀から、若手を抜擢する21世紀へ。映画人としての変化

ーその後「俳優 トム・クルーズ」が徐々に確立されていくわけですが、俳優として評価が高まっていく転換点はどこにあったと思われますか。

南波:転換点はどうなんでしょう……。そもそも1980年代までのトム・クルーズは、いわゆる演技派としての実力を試さなければいけない作品と、アイドル俳優として自分のルックスを見せるための作品の両方をうまく使い分けて出演していました。まさに『トップガン』と『ハスラー2』がその典型だと思いますし、『レインマン』と『カクテル』、それから『デイズ・オブ・サンダー』(1990年、トニー・スコット)と『7月4日に生まれて』(1989年、オリバー・ストーン)もほぼ同時期ですよね。

しかも演技を見せる作品では巨匠監督と必ずタッグを組むだけでなく、キャリアも年齢も自分より一回り二回り上の俳優と共演しています。さらにすごいのが、ダスティン・ホフマンもポール・ニューマンもトム・クルーズと共演したことで『アカデミー賞』を獲得している。つまりベテランから映画の作り方や演技を吸収するだけでなく、自分が出演することで映画全体のクオリティーを上げ、しかも相手に大きな利益をもたらしているんですね。

このことは今でも変わらないスタンスで、自分以上に相手を立てるわけです。相手を立てることで映画全体のクオリティーが上がり、映画のクオリティーが上がるからこそ必然的に出演者である自分のステータスも上がる。こういった構造を作り続けているのがトム・クルーズのすごいところですね。

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)の監督であるクリストファー・マッカリーが、Blu-ray特典のメイキングでトムは常に自分ではなく共演者を立てるための指示を行うんだと語っています。これは「ミッション:インポッシブル」シリーズにおける「お先にどうぞ」のスタンスとのことで、「あなたたちが自分(トム・クルーズ)より目立ってください」という方針なのでしょうね。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』メイキング写真 ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

ーそれは俳優だけの役割を全うするのではなく、言わば映画全体を俯瞰して見渡すプロデューサーとしての気質を発揮させているからなのではないかと思います。

南波:インタビューなどで「自分が目立つのではなく、映画が立てば良い」という意味のことを、しばしばトム・クルーズは言いますが、きっとそのことこそがプロデューサー気質たる所以なのかもしれません。

プロデューサー気質ということで驚いたのは、1994年にスピルバーグが題材的には真逆に見える、『シンドラーのリスト』と『ジュラシック・パーク』を同時に作りますが、トム・クルーズは『シンドラーのリスト』の脚本家(スティーヴン・ザイリアン)と『ジュラシック・パーク』の脚本家(デヴィッド・コープ)の両方を『ミッション:インポッシブル』の脚本に招きます。こんなことをするプロデューサーがいるのかと、当時はこの恐ろしい抜擢に舌を巻きました。

『ミッション:インポッシブル』予告編

南波:また『シンドラーのリスト』以降のスピルバーグ作品の撮影はヤヌス・カミンスキーですが、いちばん最初でこそありませんでしたが、スピルバーグ作品以外でいち早く彼を起用するのも、やはりトム・クルーズ主演作『ザ・エージェント』(1996年、キャメロン・クロウ)なんですね。口にはしませんが、トム・クルーズはスピルバーグからものすごくいろんなことを学んでいるんだなという気がしています。

ーJ・J・エイブラムス、クリストファー・マッカリー、また『トップガン マーヴェリック』(2022年)ではジョセフ・コシンスキーを起用するなど、若い監督を抜擢することにも長けていますよね。

南波:『ミッション:インポッシブル3』(2006年)あたりから若い才能を抜擢するように切り替え始めましたよね。それまではさっき申し上げた通り、いわゆる巨匠監督と組んで映画を学ぶ時代だったわけです。いわゆる実績のある監督と組むことで、映画の格を上げるとともに自分も何かを吸収するのが20世紀までのトム・クルーズでした。ところが「これからは、自分自身が映画そのものを引っ張っていかなければいけない」とでも思ったのでしょうか。言わば頂点といっていい、キューブリックやスピルバーグと組んだことで、もはや巨匠監督とはやり尽くした感があったのかもしれませんが(笑)。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』場面写真 ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

南波:そんな中『ミッション:インポッシブル3』では、当時テレビプロデューサーだったJ・J・エイブラムスに劇場映画初監督をさせます。そして次の『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)では、それまでピクサーのアニメーション監督だったブラッド・バードを初めて実写監督に抜擢しました。

さらに『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年)と『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』ではクリストファー・マッカリー、またシリーズ以外では『オブリビオン』(2013年)や『トップガン マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキーと、才能を見出す力を発揮して彼らに監督としてのチャンスを与えるようになる。しかもここで重要なのは、監督だけじゃなく脚本を兼任させることで映画全体をコントロールさせようとしたところです。しかもそれらの作品はそれぞれの作家にとっての代表作としても位置付けられています。

マッカリーなんてほとんどトム・クルーズ主演の映画しか撮ってないですからね(笑)。『ミッション:インポッシブル』シリーズが6作目を数えた今でもクオリティーは落ちないどころか、むしろ上がる一方であることは本当に驚くべきことだと思います。

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