2015年に発表された『言ってはいけないクソバイス』という本がある。エッセイストの犬山紙子が、SNSなどでさまざまな体験談を募集して書き上げたものだ。
前書きによるとクソバイスとは「求めていないのに繰り出される、クソみたいなアドバイス(上から目線で持論を押し付ける行為)」のこと。「仕事ばかりしていると婚期逃すよ」、「酒豪の女はモテない」、「才能は10代で輝かないともう無理」など、ゲンナリするクソバイスがオンパレードで収録されている。リアルタイムで読んでいた私は「うわあ、こういうこと言う人いるよな……」と頷きまくった。これが人生相談、ひいてはコミュニケーション全般における暴力性を認識した最初だったと思う。
この当時に比べれば、クソバイスを言う人もずいぶん減った、はず。おそらく減った。減ったよね? なんだか不安になってきた。ここでクソバイスをめぐる状況を、一度確認しておく必要があるんじゃないだろうか。
犬山さん、10年たってクソバイスはどうなりましたか?
INDEX
言い返せないモヤモヤから生まれたクソバイス
ークソバイスという言葉はどういった経緯で生まれたんですか?
犬山:その頃、『SPA!』で「痛男!」(イタメン)という酷い名前の連載をしてたんです。男性から受けた痛い言動をまとめたコラムだったんですけど、続けていくうちにアラサーの女性たちがめちゃくちゃ男性から上から目線のアドバイスをされていることがわかったんですね。
今から15年ほど前ですから、「早く結婚しないと」、「子どもを産むタイムリミットが」というようなことがカジュアルに言われていましたし、女性側が「私、何も知らなくてヤバいんです」みたいなことを言うことで自分を下げるようなテクニックを使って男性を接待するような場面もありました。

仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職。20代を難病の母親の介護をしながら過ごす。2011年、女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めたところネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで活動中。2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げ、社会的養護を必要とするこどもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。新著『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』では、母娘関係、性教育、ジェンダー、SNSとの付き合い方、外見コンプレックス、いじめ、ダイエットなど子育ての不安を専門家へ取材。
犬山:でも、こっちが何も聞いてないのに「その歳で彼氏いないの? ヤバいね」なんて言われても、なかなか言い返せなくて。「君のためを思って」が枕詞になっているし、ここで噛み付いたら私の方が悪者になっちゃう気がして。言い返せない自分にすごくモヤモヤしてたんですね。
連載でこういった気持ちを書くうちに「これってアドバイスのていのクソ、クソバイスじゃん!」と思い命名。コラムで使ってたらネット上でもすぐ浸透して、やっぱりみんなクソバイスにイライラしてるんだなと。じゃあクソバイスのエピソードを集めて本を作ろうという、そんな流れです。
ー今でこそマンスプレイニングやマイクロアグレッションという概念もよく知られるようになりましたが、当時はまだ一般的ではなかったですよね。
犬山:私もまだフェミニズムには触れていなかったですし、そういう言葉も不勉強で知らなかったんですね。
でも、マンスプレイニングは女性が男性から受けるものですけど、クソバイスは男性も受けているんですよね。同性の上司からとか、女性からもあるでしょうし。私がクソバイスという言葉を思いついたきっかけはジェンダーとすごく関係があるんですけど、結果的にジェンダー関係なく使える言葉になったと思います。
ー結婚、出産、育児などに関するクソバイスは、女性が女性に言うこともあるんですよね。「私も苦労してきたから言うけど」というような。
犬山:ありますね。最近は自分が抱えた痛みを次世代に引き継ぎたくないという方も増えているので、素晴らしいと思いつつ、なくなったわけではないと思います。いろんな場で、そういった意識の格差が開いているのを感じますね。
ー『言ってはいけないクソバイス』を読み返すと「人前で豚骨のカップラーメンを食べるのは女子力が低い」と言われたエピソードが載っていて面食らいました。「女子力って久しぶりに目にしたな」と隔世の感があるんですが、今でもあるところにはあるという。
犬山:全然あります。そういうことに気をつけている場では本当に減りましたけど、そのゾーンから一歩出ればいくらでも残ってます。例えば、結婚した後に義両親からいろいろ言われて困ってる友達もいますし。世代の差はありますよね。あとは、知識として「言ってはいけない」とは知っているけど、「そんなこといったら何も言えない」って開き直るパターンも。