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映画『F1®/エフワン』レビュー カーレース映画史を塗り替える臨場感への音楽の貢献

2025.6.27

#MOVIE

マシンを実際に運転しているのは……

まずは、これまでのレース映画では全く見たことのないようなスペクタクルに満ちた映像が全編にわたって展開される様に、何よりも驚かされる。通常、カーレースを題材とした映像作品においては、疾走するマシンを車外から様々なアングルで撮影した映像を主軸に、車体に取り付けられたカメラで撮られた素材を織り交ぜるという方法が常道であった。また、映画作品以外でも、レース中継番組などで、いわゆる「オンボードカメラ」視点の映像を見たことのある観客は多いだろうが、それらは基本的に、定点から車体前方を捉えるアングルに固定されているものだった。

今回の映画『F1®/エフワン』も、車外 / 車内のカメラをフル活用しているのは変わらないにせよ、そのアングルの多彩さや動きの面で、これまでとは全く異なった次元の映像世界を作りだすことに成功しているのだ。これらは、実際に疾走するマシンに多数装着された新開発の小型ハイスペックカメラによって実現したものだというが、端的に言って、まるで超スピードのマシンに同乗して辺りを見回しているかのような、素晴らしく劇的な効果を発揮している。自ら高性能な車両を駆ってサーキット走行を楽しんだことのある方、あるいはそこまでいかなくても、ハイスピードで駆け抜ける自動車の爽快感を体験したことのある方ならば、身体の奥底から湧き上がるようなあの時の興奮が、見事という以上のリアリティとともに映像化されている事実に、驚かないではいられないだろう。

© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

それだけではない。猛スピードで疾走するマシンを実際に運転しているのが、ブラッド・ピット、ダムソン・イドリス自身であるという事実にも驚嘆させられる。しかも、劇中に登場するエイペックスチームの車両は、ダラーラ社製のF2マシンを、メルセデスAMGチームの協力の元F1®マシン仕様に改造したもので、スペック面でも本物のF1®車両に劣るわけではない一種のモンスターだ。ピットとイドリスの二人は、この車両をそれなりにコントロールできるようになるどころか、実際のレースが行われている場で撮影が行えるレベル――つまりプロレーサーに準ずる技術と運転時の負荷に耐える肉体のレベルまで達した上で撮影に臨んだというのだから、全くもって恐れ入る。シフトやハンドル、アクセル、ブレーキ等の操作法の習得はもちろん、実際のコースにおいてそれらを的確なタイミングで操るための応用的なトレーニングや、強烈な重力加速度(いわゆる「G」)に耐えるための走行訓練を数ヶ月かけて重ねたという。さらには、その猛訓練の成果を、脚本に書かれたセリフとともに、実際のグランプリの現場で限られた時間の中にNGを出さずに遂行するという、それ自体が離れ業というべきパフォーマンスを行っているのだから、輪をかけてすごい。そのような一見無謀ともいえるプロジェクトを、画策・調整・実行してみせた名プロデューサーのジェリー・ブラッカイマー以下、コシンスキー監督やスタッフのプロフェッショナリズムにも、脱帽というほかない。

ニューヨークのタイムズスクエアで行われた、本作のワールドプレミアに出席したブラッド・ピット / © 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
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