『トップガン マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキー監督が、ブラッド・ピット主演で、モータースポーツの頂点を描いた王道エンターテイメント作、映画『F1®/エフワン』が6月27日(金)より公開されている。
劇伴音楽を担当したのは、先日の来日公演も話題になったハンス・ジマー。『パイレーツ・オブ・カリビアン』『バックドラフト』(=『料理の鉄人』)などのテーマでおなじみの名手だ。また、ドン・トリバー feat. ドージャ・キャット、エド・シーラン、ロゼらによる、この映画のために作られた新曲もふんだんに使用されている。
本作と音楽の関係を考えてみると、「自動車と音楽」の関係も見えてきた。連載「その選曲が、映画をつくる」第27回。
※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
カーレース映画史を塗り替える映像体験
F1®。エフワン。その名を発音するだけで、自動車文化に少しでも関心を持つ者ならば、曰くいい難いスリルと畏敬の念が湧き上がってくるのを感じるだろう。名実ともに自動車レースの頂点に位置する存在として、長年にわたって国際的な人気を誇ってきたF1®は、多くの者達を熱狂させる巨大エンターテイメントでありながら、同時に、信じがたいほどの過酷さを伴う求道的なスポーツだと目されてきた。数々のスタードライバーが、決して忘れがたい場面を(ときに自らの命すら引き換えにする悲劇とともに)生み出してきた一方で、各種エンジニアやピットクルー、車両メーカーやスポンサー等様々な人々が情熱と技術を傾ける、究極のチームスポーツとしても、多くの感動物語を紡いできた。

これまでにも、古くはジョン・フランケンハイマー監督の『グランプリ』をはじめとして、各年代の映画人がF1®に熱狂し、数々の名作を残してきた。しかし、猛スピードで駆け抜けるマシンをただカメラに映すだけでなく、それを一遍の映画として完成させるには、あまりに多くの制約が伴っていたのも事実だった。過去の「F1®映画」を観るとき、私達は心のどこかで、実際のF1®の観戦体験を、制作時点におけるできる限りのギミックを駆使して「それなりに」映像化してみたのがそれらの作品なのだと、割り切ってしまっていたのも確かだった。
今回公開された映画『F1®/エフワン』は、そうした過去の試みが到達しえなかった領域に思い切り深くまで突入してみせた、カーレース映画史を画する作品だといえる。監督を努めたのは、超大作『トップガン マーヴェリック』で同じくスカイバトル映画の歴史を塗り替えてみせたジョセフ・コシンスキーだ。とてつもないパワーを持つマシンの魅力と、そのマシンを通じて人間が体験することになる驚愕のスピード世界を描くにあたって、まさに適任中の適任というべき人物だ。

あらすじを紹介しよう。1990年代にF1®ドライバーとして有数の実力を誇った男=ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)は、ある大事故をきっかけに実戦から離脱し、ギャンブラーとして生活する傍ら、各種のレースへ雇われドライバーとして参加する日々を過ごしていた。そこへ、かつてのF1®時代のパートナー=ルーベン・セルバンテス(ハビエル・バルデム)が訪ねてくる。自身がオーナーを務めるF1®チーム=エイペックスがレースで連敗を重ね、存続の危機に瀕しているというのだ。ルーベンはソニーに、チームの専属ドライバーとしてF1®に復帰しないかと誘いにきたのだ。
誘いに応じ、イギリスのエイペックス本拠地に乗り込んだソニーだが、頑固者でときに不正ギリギリの戦略すら厭わない昔気質の彼は、才能はあるが経験未熟なチームの若手ドライバー=ジョシュア・ピアース(ダムソン・イドリス)や、テクニカルディレクターのケイト(ケリー・コンドン)等のチームメンバーと度々ぶつかり合う。それでも彼らは、世界各国で行われるシーズン中のレースを通じて、万年最下位の汚名を脱し、次第に好成績を収めるようになる。そして、ついに迎えた大一番。彼らは悲願の勝利を収めるべく、全チームの力を振り絞って戦いに挑むのだが――。