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『1975年のケルン・コンサート』解説 キース・ジャレット名盤の舞台裏を描く映画

2026.4.8

#MOVIE

映画『1975年のケルン・コンサート』が4月10日(金)より劇場公開となる。同作は、18歳の女性を主人公とした青春ドラマを通して、ジャズピアニスト=キース・ジャレットの代表的アルバムがどのように生まれたのかを描くという、少し変わった構造の作品となっている。評論家・柴崎祐二が解説する。連載「その選曲が、映画をつくる」第37回。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承ください。

キース・ジャレットの代表作、その「神話」性

ピアニストのキース・ジャレットが1975年に発売したアルバム『ザ・ケルン・コンサート』は、ジャズ史のみならず、近現代の音楽史における金字塔として、長らく不動の高評価を得てきた作品である。史上最も多くの数を売り上げたピアノ作品と言われている同作こそは、即興演奏家としてのキース・ジャレットの天才性を見事に捉えた彼の代表作のひとつであり、同時に、名門ECMレコードの一局面を象徴するアルバムとして、古今東西のファンから深く愛されてきた。

しかし、そうした傑作が生まれた背景には、必ずしも順風満帆とは言えない難しい状況があったこともよく知られている。

ジャレットは、1960年代にチャールズ・ロイドのバンドで頭角を現し、その後「帝王」マイルス・デイヴィスのバンドにも加わるなど、1970年代以降のジャズの革新的な流れを担う若き先導者となっていた。だが、芸術的な妥協を断じて許さない彼の姿勢は、次第に商業的な色彩を強めていく主流シーンと距離を取ることに繋がり、創作上のみならず経済的にも自らを困難な状況に追い込むことになった。また、同時期には、ECMのプロデューサー=マンフレート・アイヒャーや北欧ミュージシャンたちとの邂逅もあり、結果として、多くの同時代のジャズミュージシャンと同じように、ヨーロッパでの演奏活動を本格化していくことになった。

『ザ・ケルン・コンサート』は、まさにそうした状況の中で制作された実況録音盤だった。ひょっとすると、現在に語り継がれる不朽の名盤なのだから、さぞ準備万端の状態で演奏に臨んだ作品だと思われるかもしれないが、実態は全く違っていた。ヨーロッパ各地を小型自動車で周り、行く先々で尋常でない集中力を必要とする即興演奏を行う日々を送っていたジャレットの心身は、連日の睡眠不足と疲労、更には椎間板ヘルニアの発作によって極限に近い状況に置かれていたのだ。しかも、会場となるケルン歌劇場に用意されていたピアノは、彼が事前に指定していた愛用モデルではなく、リハーサル用の小型モデルだった――。

以上のようなエピソードの数々は、ジャレットのファンならば一度は耳にしたことがあるだろう。私自身も、あのような鬼気迫る演奏が記録された『ザ・ケルン・コンサート』が、実のところ相当に困難な状況の中で記録されたという事実それ自体に、言いようのないロマンを抱いてきたところがある。長年のジャズファンたる私にとって『ザ・ケルン・コンサート』とは、そういう「神話」めいた存在であり続けてきた。だからこそ、簡単に「理解」することを拒む何かがあると感じ続けてきたのも、正直なところだ。

キース・ジャレット / Keith Jarrett-commons” by Olivier Bruchez is licensed under CC BY-SA 2.0.
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