メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

『センチメンタル・バリュー』が描く「家」「居場所」「夢を見ること」とその音楽

2026.2.18

#MOVIE

同じ家に流れる、それぞれの時代を映す音楽

ヨアキム・トリアー監督は、ここ日本でも大きな話題となった前作『わたしは最悪。』でアート・ガーファンクルが歌う“3月の水(Águas De Março)”のカバーを効果的に使用していたことからも分かるように、映画を構成する重要な要素として音楽を巧みに用いてきた作家だ。今作においても数々の楽曲が散りばめられており、個々のシーンの演出を補うにとどまらず、主要なテーマの提示という面においても、欠かせない存在として効果を発揮している。

まず、本作の特徴の一つとして、回想を織り交ぜながら過去と現在を行き来するその構成の妙が挙げられるが、そこで重要な役割を果たしているのが、やはり音楽の存在だ。ナチスドイツ侵攻前の宅内の風景にアーティ・ショウのスウィングジャズ曲“Rose Room”(1939年)が、カウンターカルチャーの時代のダンスパーティーでジョニー・サンダーのファンキーなソウル曲“I’m Alive”(1969年)が、更に時代を下って、グスタヴが家庭を設ける1980年代後半に、ジュディ・ツークの“Shoot From the Heart”(1983年)が流れる様子は、一軒の家が数世代にわたる時間の厚みを経てきたことを表現するにあたって、そこに写る優秀な美術とともに実に雄弁な働きを果たしている。同じ家を被写体としながらも、そこに流れている音楽(のテクスチャー)が時代とともに明確に移り変わっていくことで、巧みに物語が駆動していく様を味わうことができるのだ。

加えて、グスタヴが古馴染みの撮影監督ペーターを尋ねる際にRoxy Musicの“Same Old Scene”(1980年)が流れるシーンをはじめとして、楽曲の歌詞と物語の内容が微妙に呼応している様も、それがあからさまではない分、かえって含蓄深い効果を生んでいるのが見て取れるだろう。更には、エンディングに使用されているラビ・シフレの“Cannock Chase”(1972年)も、この映画のテーマを優しく包み込むような効果を発揮しており、じんわりとした感動をもたらしてくれる。

連載もくじページへ戻る

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS