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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

ついに迎えた最終公演。3週間を共にしたバンド、マネージャーとの別れ

2025.5.9

#MUSIC

目覚めたら、久しぶりに雨の音が聞こえた。

勝手に内陸は暑いと思っていたが、アメリカの朝はどこでも寒いみたいだ。

今日はツアーの最終日。テキサス州オースティンで開催される『Austin Psych Fest』の前夜祭ステージへの出演が決まっている。

そもそもこのオファーがきっかけで、アメリカツアーというものの敢行を決めたという経緯がある。幾何学模様が2014年に出演したことでその名を知ったフェスであり、それからはずっと憧れの的だった。

そこについに出演できること、3週間に及ぶツアーの最終日だということ、久しぶりの雨だということ、こういった様々なことが重なり、僕の心は収まる場を失っていた。空中に浮遊し、行き場のない感覚に包まれていた。

雨の中、これまでの相場より少し高めの、オクラホマのAirbnbを出発した。オースティンまではかなり距離があるので、朝は早かった。

僕らはまず、オーガニック専門のカフェに入り、朝食をテイクアウトした。このカフェのアボガドベーグルがとてもおいしかった。今日中に財布にあるドルを使い切らねばならないので、もうこれまでのような節約はない。

オーガニックカフェの入り口にて

車はオースティンへ向かう。だが、ハイウェイはどこも混んでいる。おそらく雨のせいだろう。最後のドライブだというのに、爽快さのかけらもない。予想よりはるかに時間がかかりそうで、当初の入り時間に間に合わないみたいだ。

マイキーが、エトランのツアーマネージャーのマシューと電話をすると、彼らも渋滞により到着が遅れそうだという。マイキーはマシューに、もし先に着いたらスケジュールを変更できるか聞いてみてほしいと頼んだ。

雨はだんだん強くなる。『オースティンサイケフェス』は野外で開催される予定だ。もしこの雨で中止になったらどうなるだろう。フェスのギャラが支払われず、物販の収益もないとなると、途端に大赤字になってしまう。窓の外の激しい雨を眺めながら、不安になる。

雨の中のドライブ

結局、交通渋滞が解消されることはなく、予定の17時を大幅に遅れて会場に到着した。着いたのは開場の時間である18時半頃だった。

着くなりすぐに機材を搬入し、ステージを組み立て始める。お客さんはもうちらほらいるが、仕方ない。サウンドチェックをし、リハーサルのために1曲演奏しようと音を鳴らすと、会場全体の電源がダウンした。この雨のせいかもしれない。PAと運営が慌てて対処する。復旧し、もう一度演奏を始めると2度目のダウン。リハーサルが全くできない。

こういった、普通なら慌てる状況も、何故だかかなり冷静でいられる。ツアー最終日はいつもこんな感じになる。

電源がダウンした時の風景

完全復旧まで時間がかかりそうだったので、僕らは一旦ステージから降り、リハーサルなしで本番に挑むことにした。普通ならありえないが、今の僕らなら問題なく演奏できると思う。その自信の根拠は、紛れもなく3週間の長いツアーだった。

フェスと言うからかなり大きい会場だと思っていたが、オースティンの野外会場・Hotel Vegasは思ったよりもこじんまりしていた。これなら緊張もせずに済むし、最終日をゆったり終えられるだろう。次第にお客さんは増えていき、ついに出演時間になった。僕らはステージに上がる。

リハーサルをしなかったにもかかわらず、演奏は安定していた。毎日繰り返しやってきたことをやるだけだ。その隙間に初めてのことを忍び込ませながら、演奏を深めていけば良い。

この日の池田のサックスソロが、これまでで一番長かった。ツアーの最終日、何か思うことがあったのだろう。あまりにも長くて、僕は笑ってしまった。ソロが終わると歓声が沸いた。僕が拙い英語でMCをする。

「このショーがアメリカツアーの最後のショーです。そして次の曲が最後の曲です」

ショーはあっという間に終わってしまった。ツアーもあっという間だった。僕らは、無事に終えることができたという安堵と、鳴り止まない歓声の中、ステージを降りたのだった。

エトランのライブも今日で見納めだ。相変わらずお客さんを極限まで踊らせている。時間や空間を忘れ、笑顔を絶やさず楽しむ人々。何度見ても美しい光景だ。僕もそこに混ざり踊るのだった。

エトランのライブ

今日の収支は1600ドル(約23万円)だった。雨も降り、会場も小さかったし、まあこんなところだろう。よってこの額が、アメリカツアーの利益ということになった。充分だ。元々は赤字覚悟だったのだから。

楽屋でお金の計算をする僕ら

マイキーともこの日でお別れだから、僕らはフォトブースで写真を撮ることにした。狭いブースに男4人は窮屈だが、バンの中で3週間も過ごしたから、嫌な気分じゃない。

フォトブースで撮った写真

イベント終了後、僕らはエトランのみんなに挨拶をしに行った。彼らは笑顔で感謝を告げてくれた。僕らもハグをして感謝を告げる。本当にありがとう。

エトランとハグする僕たち

最後に彼らは、エトランの物販に並べていたブレスレットを、僕らに1つずつプレゼントしてくれた。宝物だ。これを見るたびにこの日々を思い出せる。

エトランからもらったブレスレット

エトランとツアーマネージャーのマシューが、写真を撮ろうというので、最後に2つのバンドで集合写真を撮ることにした。とても幸せな時間だった。エトランはこれから、もう3週間アメリカツアーを続け、さらにそこからヨーロッパへと飛び立ちツアーをするみたいだ。ものすごいタフネスだ。尊敬する。

エトランとの集合写真

午前12時頃に片付けを終え、僕らはあっさりと会場を去ることにした。明日の早朝にはアメリカを発つ予定だから、このままマイキーに空港へと送ってもらうことになっている。

空港には10分ほどで着いてしまった。なんて近いんだ。最後のドライブをもう少し噛み締めていたかった。まあマイキーが窓を開けていてかなり寒かったから助かった。

出発ロビー前の外のスペースに荷物を下ろし終えると、マイキーとのお別れだ。ムカつくこともあったが、結局のところ彼は素敵な男だ。僕らは彼とハグをして別れた。今度LAを訪れたら連絡してみよう。

マイキーとのお別れ

急に3人になると、少し寂しく感じる。

ただいま時刻は午前1時、飛行機の出発は午前7時なので6時間もある。さらにチェックインが4時からなので、それまでも3時間ほどある。僕らまた、荷物のコンビネーションを吟味し、飛行機に乗るための準備を始めた。周りには誰もいないので、飛行機用の服に着替える。

ロビーの前で荷物を広げる僕ら

重さを測りながら荷物をまとめ、所有していたビニールテープで合体させていく。行きの時みたいに追加料金を取られないよう、慎重に行う。大丈夫、時間はたっぷりあるのだ。

美しくまとめられた荷物

荷物も割とすぐにまとまってしまい、そこからの待ち時間はとてつもなく長かった。ジャーナルを書こうとも思ったが、言葉にしてしまうにはまだ勿体無い。思い出は思い出のまま、そっとしておく時間が必要だ。

全てが言葉になってしまうのは恐ろしいことだ。言葉は出来事を分割し、整理し、掃除し、美しくし過ぎてしまう。体験はもっと歪で、乱雑で、汚れている。そして、それをそのままの形で愛でる時間が、人生には必要だと思う。

今がその時間だった。

※次回へ続く

>連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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