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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

連日の移動でたまる疲労。ハカンバ公演で味わったやるせなさ

2025.4.28

#MUSIC

サン・ルイス・オビスポでのショーの後、僕らはロサンゼルスにあるマイキーの家に泊まることになっている。2、3時間のロングドライブだ。サン・ルイスから明日の会場ハカンバまでは7時間ほどかかるため、夜中のうちに半分ほど進んでおき、さらにマイキーの家に泊まることでホテル代の節約をする、という算段だ。

僕らはミッドナイトドライブのほとんどを寝て過ごし、気がついたらマイキーの家に到着した。オリバーのこともあったので、人の家を信用できなくなっていた僕は、疑わしい気持ちで車を降りたのだが、彼の家を見て大変驚いた。

なんて理想的な家なんだ! ミッドセンチュリーの家具たちと、ピーターマックスのポスター。本場のサイケ野郎はやはり違う。日本だと絶対こうはならないだろう。

ロサンゼルスの郊外にあるマイキーの家

4/18(金)

マイキーの家につき、寝床についたのは夜中の3時ごろだった。

次の日の朝はロングドライブのため7時起床。ほとんど寝た気がせず、起きるのはかなりしんどかった。寝ぼけ眼を擦りながら無理やり車に乗り込むと、昨日までいなかった同乗者が2人。マイキーの彼女と同居人のジーナだ。

今日の会場のJacumba Hot Spring Hotelはメキシコ国境のすぐそばにある、天然温泉付きのホテルで、実は僕らも訪れるのをかなり楽しみにしていた場所だった。僕らが泊まる部屋にベッドが6台もあることを知ったマイキーが、彼女らを束の間のバケイションに誘ったようだ。

車に乗り込むときに、マイキーの口から衝撃的な事実が飛び出した。プルガで知り合ったツアーバンド・Magick Portionのツアーバンが、数日前オークランドの路上駐車中に強盗に襲われ、パスポートと現金を全て盗まれたらしい。

僕らも数日前、オークランドでバンを路上駐車しショーを行っていた。恐ろしすぎる。

どうやら僕らはオリバーに守られたようだ。

(Magick PortionのInstagram、事件を伝えている)

朝から天気が良くなく、空には分厚い雲、道中には深い霧が立ち込めた。低気圧のせいか、不眠のせいか、体調も芳しくない。頭痛と胸が詰まるような感じが常にあり、咳も時たま出た。せっかくだから天然温泉に入ってみたかったが、これからも続くツアーのために断念することにしよう。

体調を崩した僕の近影

ツアー序盤で追加発注していたTシャツが完成したという連絡があり、マイキーの家から近かったので、ハカンバまでの道中でピックアップすることにした。明日のロサンゼルス公演に間に合って良かった。これで準備万端だ。

追加発注したTシャツ

ハカンバまで、もうすぐそこというところまで来て、ハイウェイからメキシコとの国境が見えた。その姿に静かな恐怖を覚える。

自然の流動的なシルエットを完全に見ないものにし、聳え立つ人工的な境界は、見えた物を全て言葉で分別してしまう、我々ホモ・サピエンスの愚かさの象徴のようだ。日本は海に囲まれているため、このような大地に立つ国境は存在しない。感じたことのない強い違和感が、吐瀉物のように心の底から湧き上がった。

メキシコの国境

今夜の会場であるJacumba Hot Springs Hotelは天然温泉のプールがある洒落たホテルだった。メキシコ国境付近の白い砂漠の中に、ぽつんとその姿を現した。内装もかなりクールだ。今度は時間をかけて、観光で楽しみたい。

Jacumba Hot Springs Hotel

会場についてから、用意されたAirbnbに荷物を置き、少し過ごすとすぐ会場にてリハーサルが始まった。

風が強かったため、ライブは仮設の大きなテントの中で行われることとなり、そこは100人程度しか入れないほどの大きさだった。

PAの意向でギターアンプにマイクを立てることもできず、電源も安定してないようなので、音響は期待できなさそうだ。それが理由で、みんなの気分も乗っていない感じだった。当初伝えられていたタイムスケジュールに合わせてサウンドチェックなどを進行してたのだが、PAが「後5分でライブスタートだから早くして!」と急かしてきて、リハーサルからほとんどそのまま本番に移るような流れになってしまった。人もあまり集まっていない中、ライブはスタートする。

すると1曲目の序盤、池田の鍵盤の音が鳴らなくなった。スイッチを入れ直しても、電源が落ちてしまうようだ。仕方なく、鍵盤無しでライブを進めることになる。

色々な悪い状況が重なり、トラブル対応に時間を取られたため、当初4曲用意してた演奏を3曲で留めショーを終えることにした。

明日にはツアー最大規模のLA公演が控えている。今日は程々にしてそちらに備えたほうがいいと、話さずとも僕らの思いは共通していた。

ライブが終わると、いつも僕は物販コーナーに走るのだが、この日は体調に気を使い、バンドの2人とマイキーに仕事を頼み、Airbnbに1人戻ることにした。漆黒の砂漠の道を独り歩く。

天然温泉に入れなかったので、Airbnbについているバスタブにお湯を溜めた。入浴をすますと、すぐに寝床へついた。20日間もツアーをやっていると、こういう日は必ずある。どうしようもなくやるせない日だ。

この鬱屈とした気分はどこへも逃すことはできない。いや、できなかった。これまでは。

いまの僕は、日記という習慣を持っている。こうして文章を書いていると、それが稚拙であったとしても、少しずつ心が休まってくる。人生を通して、創作活動でしか得ることができない安寧が、ひとつの逃避行動として存在していることに気がついた。

僕はもう大丈夫だ。ツアー中であっても、そこが海外であっても、この創作という習慣が、どんな災難からも不幸からも僕を守ってくれる。

4/19(土)

そんなことを考えていると、いつのまにか朝だった。体調不良はもう大丈夫だった。

ツアーが始まってから、初めて湯船に浸かり、23時台に寝ることができたからだと思う。

日本での日々のありがたさを実感する。

僕以外のみんなは、ホテルの施設を隅々まで楽しんだようだ。幸せそうで良かった。

昨日の売り上げを2人に尋ねた。結果は801ドル(約11万4000円)。小さな会場だったので、悪くない結果だと思う。よって、残る支出は8435ドル(約120万4000円)となった。なかなか厳しいが、今夜のロサンゼルスのショーに、グッズの在庫と余力を残すことができたと考えよう。

ロサンゼルスの会場・Teragram Ballroomはツアーで最も大きな会場であり、さらにロサンゼルスは僕らの音楽サブスクリプションの再生回数が、今回のツアーで訪れる都市の中で最も高い。最も集客と収入が見込めるはずだ。

海外ツアーでのライブは、なぜか日本よりも肩の力が抜け、緊張こそしないが、ロサンゼルス公演の前の緊張は、日本の東京公演のそれに近い感覚だった。

いいライブができることを願いながら、窓の外を眺めていた。


※次回へ続く

>連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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Instagram | https://www.instagram.com/maya_ongaku/?hl=ja
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