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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
maya ongakuの米国西域記

寝かせてくれないオークランドの宿主とサンフランシスコでの日本人との交流

2025.4.25

#MUSIC

今夜泊まることになっているマイキーの友達の家に着くとそこは3階建ての一軒家で、これはよく眠れそうだと一安心した。まだ宿主が家に着いていないようだったので外で待っていると、遠くから爆音で音楽を鳴らす銀色のプリウスが現れた。

「オリバーが来た」マイキーが言う。

現れたのはカウボーイハットの大男と3人の女性たち。彼らはものすごくハイで、少し嫌な予感が立ち込める。簡単に挨拶を済まし、宿主であるオリバーは我々を家に案内してくれた。その中を見て驚愕する。そこは足の踏み場もないほど散らかっており、まさに片付けのできない子ども部屋という感じだった。家はかなり広く、寝る場所を探したが、寝るのに程よいスペースはほとんどなかった。唯一ソファーで2人が寝られるかも、という具合。

オリバーの家

節約のためとはいえ、今日くらいは奮発してホテルを取るべきだったと後悔する。オリバーはシンセサイザーを爆音で鳴らし始め、連れの女性たちはずっと騒いでいる。もう夜の12時を回っていた。いい人たちだったが、ライブで疲れていた僕はかなりうんざりしてしまった。大人げない。

オリバーに「もう寝たい」と伝えると、このマットを使ってくれ! と渡されたものが、カビやら、こぼした液体の痕やらで薄汚れた、虫が湧いてそうなペラペラのマットだった。今日はこれに寝るのか。頑張ろう。

「リビングはうるさいだろうから」と言ってオリバーは僕に別の寝床を案内してくれた。それは彼が音楽制作に使っていると思われるスタジオ部屋だった。彼は床に散らかったモノを足を使って避けながらスペースを作ってくれた。僕も真似して足で寝床を作ってみる。

「いいね!」

最高の笑顔で褒められた。全然嬉しくない。

またもやオリバーの家

4月16日(水)

気がついたら朝だった。

実家時代の部屋はいつもゴミ屋敷状態だったから、妙に体が安心感を覚えたのかもしれない。いや、疲れていただけだと思いたい。

今日は1日オフだったので、昨日のショーで出会った日本人のユウスケさんにサンフランシスコのレコードショップを案内してもらう予定だ。とてもありがたい。ちなみに他のみんなはマイキーとサンフランシスコに行くみたいだ。

昨日の残りのピザを食べたり、カビだらけの洗濯機を借りてみんなの衣服を洗濯したりしていたら、すぐ午後になった。天気があまり良くなく、ジャケットを着込んで外へ出る。

15時ごろユウスケさんが車で迎えに来てくれた。

オークランドからサンフランシスコまでは車で20分くらいで、大きな橋を渡ったらすぐだった。車で行ったり来たりしながら、4、5軒のレコードショップを案内してもらったが、サンフランシスコの物価が明らかに反映されている値付けに手も足も出ず、結局1枚も買えなかった(めぼしいものは必ず20〜30ドルほどした。これまでの街の2、3倍くらいの印象。1日10ドルの予算の僕には太刀打ちできない)。

そうこうしてるうちに夜になると、ユウスケさんの奥さんであるサヤさんも合流し、サンフランシスコにある飲茶のお店で夕食をとることにした。

飲茶のお店にて、ユウスケさん夫婦

彼らに、昨日今日と泊まるオリバーの家の話をしたところ、大変心配していただき、「今晩はうちに泊まったらいい」とありがたいお言葉をいただいたので、甘えてしまうことにした。みんなごめん(しっかりみんなに連絡して、許可をもらいました)。

その後もオークランドにある、日本の居酒屋を完全再現したお店で飲みながら語らい、2人の家に着いてからも、夜中まで楽しい話をさせていただいた。ツアーが始まってから、もっとも日本語を話した日であり、もっとも心が安らいだ日であった。お2人にはこの場を借りて、多大なる感謝をさせていだこうと思う。

4月17日(木)

朝になり、ユウスケさんの車でオリバーの家まで送ってもらうと、急に現実に戻されたような気分になって、寂しくなった。束の間の故郷での休養が終わってしまった軍人のような気分だ。

オリバーの家から機材の搬出を終え(オークランドやバークレーは車を狙った強盗が多発しているため、機材は全てオリバーの家の中にいれていた)、またバンドワゴンは走り出す。出発する際にオリバーにも感謝を告げることができた。

ありがとうオリバー。

マイキーとオリバー

さて、旅は続く。

次の行き先は、サン・ルイス・オビスポ。サンフランシスコとロサンゼルスのちょうど間にある、人口5万人ほどの小さな町だ。道中はのどかな風景が続いた。後部座席に寝転がりながら、ジャーナルを書いて過ごした。

後部座席からの景色

今夜の会場であるSLO Brewはサン・ルイス・オビスポの老舗酒造で、500人収容の大規模コンサート会場とアメリカンダイナーが併設されている大施設であった。建物自体はかなり新しいようで、音響設備も今回のツアーでもっとも最先端なものを取り入れているようだ。

ステージが仮設パイプのようなもので組まれていて、低域をがっつり出すと振動してしまうのが少し難点だが、外に出ている音は素晴らしかった。

リハーサル中のエトラン

我々のバンドには珍しくドラムがいなく、リズムはシンセサイザーやドラムマシンといったテクノロジーに依存しているので、ライブの出来はその会場の音響設備にかなり左右されてしまう。小さな会場や劣悪な音響だとあまりいいライブは期待できない。

逆にある程度大きな会場(ステレオ認識がはっきりできるほど左右のスピーカーが離れているような)や、最新の音響設備だと、力を十二分に発揮できる。作り込んだ音を正確に届けることができれば、どんな国のお客さんも音に没入させられる自信がある。

今夜のライブは素晴らしい出来だった。1曲目の”Water Dream”から会場全体のエネルギーをがっちり掴んだのを実感した。やはり音の良い会場でのライブは格別だ。お客さんも300人くらいはいたと思う。

こういう場合、いつもなら物販もかなり売れる流れなのだが、Tシャツがほとんど完売し品薄状態であったため(3種類のうち1種は完売、その他2種は2XLしか在庫がなかった)、思うように売上が上がらなかった。それでも最後まで物販コーナーに張り付き、在庫のあるレコードやトートバッグなどを売り、結局この日の収支は1945ドル(約28万円)であった。状況にしては申し分ないだろう。

ということで、残る支出は4735ドル(約67万円)まできた。かと思ったのだが、残念なことにまたもや見逃していた支出が存在した。それは今回物販でもっとも売り上げに貢献しているレコードの仕入れ値であった。

我々が所属するGuruguru Brainはアーティストファーストの鏡のようなレーベルで、バンドがツアーの物販用にレコードを仕入れる場合、レーベルに払うのは原価分だけでよいことになっている。本当にありがたい話だ。だがそれでも、その仕入れ値は4500ドル(約64万円)ほどになる。

つまり、残る支出は合計で9235ドル(約131万円)となった。

何度も振り出しに戻ってる気がする。まあ流石にこれ以上の追加支出はないと思われるので、これが最終合計支出だとしていいだろう。

残すショーは6回。つまり回収には、1ショーあたり1600ドル弱(約23万円)の収入が必要だ。急に余裕がなくなった。やはりアメリカツアーは鬼門みたいだ。だが、敵はこのくらいの手強さがちょうど良い。なんだか燃えてきた。


※次回へ続く

>連載もくじはこちらから

maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party

maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。

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