4/11(金)
快晴で乗るバンクーバー行きのフェリーは爽快であった。海面に寄り添って飛ぶ海鳥の群れに、フィルムカメラのシャッターを切った。デッキにはエトランのメンバーの姿もあった。彼らはフランス語を話すので、会うと軽い挨拶だけを交わしている。いつも笑顔で答えてくれるのが、とても嬉しい。
バンクーバーまでの車内は、マイキーがニール・ヤングの『Harvest』をかけてくれた。その土地で生まれた音楽を、その土地で聴くことは、無数に存在する音楽鑑賞の方法の中で、最も素晴らしい方法のひとつだと思う。音は空気の振動だけだから、その音が生まれた土地の空気を揺らすのが、一番得意に決まってるのだ(ニールヤングはトロント出身で、『Harvest』はナッシュビルで録音されているのだが、細かいことはどうでもいい)。

バンクーバーのショーまで少し時間があったので、僕らは街のレコードストアと楽器屋に立ち寄った。1時間ほど時間を潰し、ライブハウスThe Pearlへと向かおうとすると、「管楽器専門店があるみたいだから少し覗きたい」と、池田がいなくなった。少しして帰ってくる。そこは楽器修理専門店で売り物はなかったらしい。
会場は音もよくVJ設備がついて、おそらく5、600人は収容できそうな、これまでのツアーの中ではかなりクオリティの高いものであった。こういう会場では自然と気合が入る。
各々でサウンドチェックをしていると、池田が何やらあわてている。訳を尋ねると、サックスの音が鳴らないという。どこかしらが壊れているらしい。池田はすぐにマイキーにその旨を伝え、先ほど池田がひとりで立ち寄った、会場近くの楽器修理店へと電話した。閉業時間ギリギリだったにもかかわらず、職人さんが会場まで来て、サックスを見てくれるみたいだ。たまたまにしてはできすぎた話である。
無事ライブ前までにサックスは直り、そのおかげで最高のショーになった。3人でグッズコーナーに立っていると、サックスを修理してくれた職人さんが現れた。僕らは感謝を伝え、レコードを一枚差し上げることにした。こうしたひとつひとつの小さな出会いが、僕らのツアーを共に作り上げてるという事実を実感する。
この日のグッズの売り上げは、2080カナダドル。USドルにして1500ドル(約21万4000円)になった。残る支出は約9600ドル(約137万円)で、10000ドルを切った。それでも日本円にすると150万近い。電子決済を使えないカナダの2公演で、無事ボーダーラインを越えることができ、ひと段落という気持ちであった。
4/12(土)
バンクーバーから再び国境を越え、僕らは一旦、通り道のシアトルでランチをすることにした。ここで食べた、アジア人が経営しているハンバーガーショップが美味しかった。

アメリカでは、道路の路肩に有料で駐車することができる。値段は土地によってまちまちだが、1時間大体2ドル前後が妥当である。僕らが街でハングアウトするときは、必ずその駐車方法を用いるのだが、この日は事件が起きた。ハンバーガーを食べた後、駐車時間制限まで30分ほどあったので近くのレコードストアに立ち寄ることにしたのだが、マイキーが時間を気にせずディグしてしまい、車に戻るとワイパーに見知らぬ紙が挟まっていた。マイキーは頭を抱えた。どうやらそれは超過違反を伝える紙で、僕らには65ドル(約1万円)の罰金が課せられることになったらしい。なんて無駄な出費なんだろう。次から気をつけよう。
5カ所目のポートランドのライブハウスWonder Ballroomは今のところ最も素晴らしい会場といえるかもしれない。フロアもステージも広く、グッズコーナーは少し狭かったが、警備スタッフも多く、楽屋も安全なものが用意されていた。ホスピタリティも高く、夕食には150ドルもの現金が手渡された。全くアメリカとは思えない。

音作りには少し苦労した。箱の形状のせいか、低域が膨らんでしまう。長い時間をかけてPAと相談しながら、音を少しずつ好ましい形に変化させていく。結局完璧な状態とまではいかなかったが、ある程度納得する音にすることができた。
さらに、今日提案された演奏時間が30分と短く、もう少し伸ばせないかと交渉し、なんとか10分伸ばした40分の演奏時間を手に入れた。
海外はこういった提案にも柔軟に対応してくれる場合が多い。逆にこちらが何も言わないとどこまでも権利は失われていく。自分たちの音楽を人に届けるために、公平なコミュニケーションは必要不可欠と言えるだろう。僕らはアメリカにお邪魔しに来ているわけじゃないのだ。
ポートランドでのショーは、最前のお客さんたちの踊りがとにかく最高だった。カルチャータウンなだけに、もともと僕らのこと知って来ている人も多い印象だった。
演奏が終わった後自分の楽器を片付け、グッズコーナーに向かうと大きな人だかりが。しかし、コーナーには誰もいない。マイキーの姿もない。急いで対応をし始めると、すぐにエトランのショーが始まり、客は音に釣られ引いてしまった。なんて勿体無いことをしてしまったんだ。今後のため、改善しなくてはならない。
ただ、エトランのショーの途中や終わった後にもたくさんのお客さんが来てくれた。最終的に2300ドル(約33万円)まで売り上げることができた。ただ、ショーの手ごたえや、箱のサイズでいうともっと売上の見込める会場だったと感じる。
残る支出は7300(約104万円)ドルとなった。
しかし、ここでひとつ見落としていた支出が見つかった。それはこのツアーを組んでくれているアメリカのエージェントである「グラウンドコントロール」と、マネジメントをしてくれているゴーちゃんへの利益分配である。
それによって、さらに2700ドル(約39万円)を支出に追加しなければならず、計算し直すとトータルコストは18700ドル(約267万円)になり、これまでのショーで売り上げた分を除くとちょうど10000ドル(約143万円)となる。残すはあと9公演なので、1公演1112ドル(16万円)が損益分岐点である。南部に行くにつれて少しずつ会場は小さくなっていくが、オークランドやロサンゼルス、オースティンサイケフェスなどの大規模な会場も残っているし、これまで通り順調にいけば黒字にできそうで安心した。
※次回へ続く
maya ongaku US TOUR dates 2025

Apr 08 Seattle, WA, US|Neumos
Apr 09 Bellingham, WA, US|The Shakedown
Apr 10 Victoria, BC, Canada|Wicket Hall
Apr 11 Vancouver, BC, Canada|The Pearl
Apr 12 Portland, OR, US|Wonder Ballroom
Apr 14 Chico, CA, US|Argus Bar + Patio
Apr 15 Oakland, CA, US|The New Parish
Apr 17 San Luis Obispo, CA, US|SLO Brew Rock
Apr 18 Jacumba Hot Springs CA, US|Jacumba Hot Springs Hotel
Apr 19 Los Angeles (LA), CA, US|Teragram Ballroom
Apr 20 Flagstaff, AZ, US|Coconino Center for the Arts
Apr 22 Santa Fe, NM, US|Tumbleroot Brewery & Distillery
Apr 23 Oklahoma City, OK, US|Resonant Head
Apr 24 Austin, TX, US|APF 25: Kickoff Party
maya ongaku(マヤ オンガク)

2021年、江ノ島の海辺の集落から生まれた園田努、高野諒大、池田抄英による3人組バンドmaya ongaku。魂のルーツを超えたアーシーなサイケデリアを奏でる地元ミュージシャンの有象無象の集合体。その名の由来は、古代文明からではなく、視野の外にある想像上の景色を意味する新造語。「自然発生」と表現する、非生物から生物が生まれるとされる現象の集大成が<maya ongaku>の原点である。2023年5月に1st album『Approach to Anima』をGuruguru BrainとBayon Productionよりリリースし11月にEU/UK TOUR、12月に国内TOURを行い成功をおさめる。2024年8月にNew EP『Electronic Phantoms』を発表。8月にWWWとの共同企画 “rhythm echo noise”ではオランダからFelbmを招聘し開催。TOKYOから世界へ発信する新たな音楽アワード「TOKYO ALTER MUSIC AWARD 2024」の”Best Breakthrough Artists”を受賞する。これまで森道市場、FFKT、FUJI ROCK、朝霧JAM、FUJI&SUNなど多くの国内フェス、また韓国や中国のASIAフェスにも出演。
maya ongaku | linktr.ee/maya_ongaku
Instagram | https://www.instagram.com/maya_ongaku/?hl=ja
Twitter | https://twitter.com/maya_ongaku