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Radioheadの音楽的頭脳としてではない形で、グリーンウッドが才能を爆発させた原点
ジョニー・グリーンウッドは1971年生まれ、オックスフォード出身の英国人音楽家。Radioheadのメンバーとしてもっともよく知られていますが、幼少期にピアノやビオラなどの楽器を習得するなどクラシック音楽を学び、ロック、電子音楽、民族音楽、クラシックなどをミックスした独自のスタイルを築く音楽家です。
そのギター演奏、モジュラーシンセサイザーやオンド・マルトノといった電子楽器を巧みに操る姿はまさに、鬼才 / 奇才と呼ぶに相応しく、Radioheadの“How to Disappear Completely”などからもその特異な才能の片鱗が垣間見えます。
しかし、音楽家としてのジョニー・グリーンウッドの才能は一言では言い表せないほど複雑かつ壮大で、計り知れないものです。もしかするとグリーンウッドはRadioheadの中心的メンバーとしてではなく、むしろ映画音楽家、現代音楽家として、歴史に名を残す可能性すらある、と言っても過言ではないと思います。
そう感じさせるのは、何より『ワン・バトル・アフター・アナザー』のサウンドトラックが「映画音楽」として、音楽として、出色の出来であるからです。
なぜそこまでのことが言えるのか。本作での達成について考える前に、その映画音楽家として原点を振り返る必要があります。
Radioheadの6作目『Hail to the Thief』が発表された2003年、ジョニー・グリーンウッドは『Bodysong』でソロデビューを果たします。同作は、イギリスのドキュメンタリーフィルムのために録り下ろされたサウンドトラックです。
『Bodysong』はジョニー・グリーンウッドという才能が、真の意味で、遺憾なく発揮された最初の例と言っていいでしょう。
『Bodysong』と題された映画は、音と映像だけで人間の存在を描いており、音楽がストーリーテラーのように機能した作品です。サウンドトラック自体はロック、クラシック、コラージュ、フリージャズなどの要素がミックスされた音楽ですが、弦楽器のグリッサンドや、スル・ポンティチェロ(※)などの特殊奏法が使われているなど、特に“Iron Swallow”や“Tehellet”など、この時点で後の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』へと繋がるような独自のスタイルが確立されています。この点において、『Bodysong』はグリーンウッドのソロキャリアにおける、後の映画音楽、現代音楽作品の源流とみなすことができます。
※筆者註:弦楽器の特殊奏法のひとつで、弓で弦を擦る際、極端にブリッジ寄りで弾くこと