このたび、アンドレイ・タルコフスキー監督作品『ローラーとバイオリン』『僕の村は戦場だった デジタルリマスター版』『アンドレイ・ルブリョフ』『惑星ソラリス デジタル・リマスター版』『鏡』『ストーカー』の6作品が、『タルコフスキー特集2026 / 超域の映像』として4月4日(土)~10日(金)に渋谷ユーロスペース、4月10日(金)~16日(木)にはアップリンク京都において、特集上映される。
「映像の詩人」といわれる、アンドレイ・タルコフスキー。映画に詳しくなくても、名前だけは聞いたことがあるのではないだろうか。ストリーミングサービスでの配信こそあまりされていないので、名作の数々がスクリーンで観られるというのは貴重な体験だ。
タルコフスキー作品といえば、映画作家を目指すうえで、誰もが一度は通る道であり、作家性に影響を受けた者も多い。特に、SFジャンルの作品を目指す者であれば、切っても切り離せない存在だ。
例えば、宇宙を舞台にした『惑星ソラリス』(1972年)は、今でも多くの映画作家を刺激し続けており、『ゼロ・グラビティ』(2013年)のなかにも、その余韻が見え隠れしている。また、劇場公開中の最新作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026年)などでは、直接的には描かれていないとしても、「宇宙の孤独」を演出するうえで、どうしても意識してしまう作品といえる。
『DUNE / デューン 砂の惑星』シリーズを手掛けているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、タルコフスキーに影響された映画作家のひとりとしても有名で、『ブレードランナー 2049』(2017年)でもリスペクトが強く反映されている。ほかにもラース・フォン・トリアーやクリストファー・ノーラン、アンドレイ・ズビャギンツェフといった映画作家が大きな影響を受けているのだ。

そんなタルコフスキーの第1作目は、アルベール・ラモリスの短編『赤い風船』(1956年)から着想を得た、卒業制作の短編『ローラーとバイオリン』(1960年)だ。1961年、同作でニューヨーク国際学生映画コンクール第1位を獲得したことで、映画作家として注目されていく。このときに撮影を務めたカメラマンのワジム・ユーソフとの出会いは運命的ともいえ、その後、『僕の村は戦場だった』『アンドレイ・ルブリョフ』『惑星ソラリス』と、4作品で撮影を手掛け、タルコフスキーの詩的な表現を極限まで実現に近づけようと支え続けた。タルコフスキーとユーソフのケミストリーを再確認できるのも、「タルコフスキー特集2026 / 超域の映像」ならではの体験となるかもしれない。

また、ソ連出身のタルコフスキーは、スターリン体制が終焉を迎え、西の芸術文化がソ連に流れ込んできた時期を思春期に体験したことが、唯一無二でハイブリッドな作家性の基礎を作ったともいえる。長編1作目『僕の村は戦場だった』(1962年)や、イコン画家のアンドレイ・ルブリョフの生涯を描いた『アンドレイ・ルブリョフ』(1967年)など、時代設定が違ったとしても、その作家性を感じとることができる。
ただし、それはあくまで基礎的な部分でしかない。タルコフスキーが「映像の詩人」と呼ばれる要因としては、自然や時の描写に長けており、明と暗を映像だけではなく、感覚的にも訴えかけてくるところにある。そして、ウクライナの詩人アルセニー・タルコフスキーを実父にもった影響も強いといえるようだ。アルセニーは幼少期に家を出てしまったため、シングルマザーの貧しい家庭で育つが、詩人としてのDNAは違った形で受け継がれていたのだろう。
なかでも『鏡』(1975年)は、タルコフスキーの自伝的要素が強いとされており、父が家族をおいて家を出ていくという点でも同じだ。激変する世界情勢のなかで生きる家族を描きながらも、タルコフスキーが父と同じ道を歩んでいることに対してのメタファー、あるいは運命や宿命でもあるかのように、アルセニーの詩を引用するシーンが印象的な作品だ。

SF界では知らない者はいないほど著名な作家・ストルガツキー兄弟の小説『路傍のピクニック』を原作とし、タルコフスキーにとって最後のソ連映画とにる『ストーカー』(1979年)も、『惑星ソラリス』と並んでSF映画の金字塔として、今も多くの映画作家を刺激し続けている。専門的なワードや美術を並べるよりも、感覚的に「宇宙」というものを感じさせるのは、見事としか言いようがない。
このように、デビュー作から中期、つまりソ連で制作された最後の作品まで、タルコフスキーの作家性の起源と成長、確立を体系的に理解できるという点でも、『タルコフスキー特集2026 / 超域の映像』は、またとない機会といえるだろう。
『タルコフスキー特集2026 / 超域の映像』

■ローラーとバイオリン
1960年/カラー/46分
1961年ニューヨーク国際学生映画コンクール第一位
バイオリンが得意な少年サーシャは、近所の少年たちにいじめられているところを、労働者のセルゲイに助けられる。しかしサーシャの母親は快く思っていなかった…。アルベール・ラモリスの『赤い風船』に刺激された作品。
■僕の村は戦場だった
デジタル・リマスター版 1962年/モノクロ/94分
1962年ヴェネツィア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞/1962年サンフランシスコ国際映画祭監督賞
第二次世界大戦下のソビエト。両親と妹をドイツ軍に殺され独りぼっちになり、復讐心に燃える12才の少年イワンは、パルチザンに協力し、危険をおかして敵の占領地域への偵察活動に従事するが…。
■アンドレイ・ルブリョフ
1967年/モノクロ&カラー/182分
1969年カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞/1973年ジュシー賞(フィンランド)外国語映画賞他多数
15世紀初頭。ロシア最高のイコン画家アンドレイ・ルブリョフの生涯を描きながら、当時のロシア社会の真実に迫った意欲作。
■惑星ソラリス
デジタル・リマスター版 1972年/モノクロ&カラー/165分
原作:スタニスワフ・レム著「ソラリスの陽のもとに」1972年カンヌ国際映画祭審査員特別賞他多数
海と雲に覆われた惑星ソラリス。その海は理性を持つと科学者は考え、接触しようと試みるが失敗。宇宙ステーションは混乱に陥り、地上との交信は途切れる…極限状態の人間の心に焦点を当て、哲学的命題を投げかける。
■鏡
1975年/カラー/110分
タルコフスキーの自伝的要素の濃い作品。家族の許から去った父。母の職場の同僚の死。第二次世界大戦、文化大革命、中ソ国境紛争など、激動の世界情勢を通し心象風景が形づくられる。
■ストーカー
1979年/カラー/163分 原作:ストルガツキー兄弟「路傍のピクニック」
1980年カンヌ国際映画祭エキュメニカル審査員賞/1983年ファンタスポルト映画祭観客審査員賞
隕石でも落ちたのか大地に突然現れた空間(ゾーン)には〈願掛けの部屋〉がある…作家と科学者は〈ストーカー〉と呼ばれる案内人に導かれ、危険なゾーンへと向かった。
アンドレイ・タルコフスキー(Andrei Arsenyevich Tarkovsky)
1932年4月4日~1986年12月29日
長編監督作は7本と寡作だが、水、雨、光など自然を駆使した抒情的な作風により映像の詩人と呼ばれ、世界中に映画ファンを獲得し、どの作品も長く見られ続けている傑作揃い。ソ連からフランスに亡命して僅か2年後の1986年、54才で肺ガンによりパリで客死。
4月4日(土)~10日(金) 渋谷ユーロスペース
4月10日(金)~16日(水)アップリンク京都 にて開催