マームとジプシーによる新作公演『Curtain Call』が、5月8日(木)から11日(日)まで、東京・新宿のLUMINE0で上演される。
藤田貴大が全作品の脚本と演出を務める演劇団体として2007年に設立されたマームとジプシー。これまで過去の自身の記憶、時代や土地にまつわる文献を元にした史実、様々な作家の言葉、寓話など、あらゆるテーマをフィクションとして演劇作品に昇華させてきた。2011年には三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』を上演し、藤田が26歳の若さで第56回岸田國士戯曲賞を受賞している。
劇団および藤田にとって新たな挑戦になるという『Curtain Call』は、演劇のバックヤードを舞台とする演劇。ある俳優が劇場に到着してから、とある演目が開演するまでの数時間が描かれる。俳優はウォーミングアップを行い、衣装やヘアメイクを整え、舞台監督、照明、音響などのスタッフが準備を進める中、それぞれにたわいのない会話が交わされ、やがて開演に向けて全員が集中していく。そして作中での開演が訪れると同時に、公演は終了する。
藤田が「演劇」というありのままの自身の「営み」を描く背景には、世界では戦争や災害など危機的状況に陥った際、文化 / 芸術は非生産的な「余暇」とみなされ、その価値が後回しにされてきたという歴史がある。こうした傾向は、単調なコミュニケーションや人間関係を生み出し、他者への深い理解や共感を諦めることにつながる。これに対して、演劇の現場で言葉を尽くしながら作品づくりを行っている藤田は強い危機感を抱き続けており、今も続く悲惨な戦争や武力行使は「対話を諦めた者たちが取る手段」であると主張する。
構想の出発点となったのは、コロナ禍で文化 / 芸術が「不要不急」と言われたこと。演劇を作ることが職業であり、幼少期から30年以上にわたって演劇を続けてきた藤田にとって、演劇は社会とつながる唯一の手段であり、それが休止に追い込まれた状況は深い衝撃をもたらした。しかし、その状況を観察して生まれた感情が、同作には活かされている。
また、演劇のバックヤードでは、異なる専門性を持つ人々がそれぞれの役割を果たしながら公演を成立させていることから、同作は一つの「社会の縮図」にもなっている。その光景を観賞することで、観客は自身の「家族」「社会」「仕事」などの営みと重ね合わせ、作品と観客との新しい対話が生み出されると藤田は考える。同時に、演劇を社会における営みの一部として示すことで、これと同様に存在するすべての人々の自由な活動や生活は、社会の傾向や世界情勢によって侵されるべきではないという強いメッセージを含んでいる。
窓の無い劇場の内側は暗闇で、そこに明かりを灯さない限り、
藤田貴大
誰かや何かの像は浮かび上がってこない。
劇場は音の無いように設計されてあるから、微かに誰かが話したり、
或いは何かが鳴った方へと、観客は耳を傾ける。
その光や、音、それ自体を劇場という空間にて、
まずは作っていくのがわたしの営みだと思っている。その光や、音、その中に在る人や物を、
どう配置するか。そこでどういう物語が、どういうレベルで語られるか。
その人の造形を、じゃあメイクアップや衣裳でどうしていくか。
その人は、舞台上で言葉を声にしたり、身体を動かしたりするのだけど、開演前に何を食べて、
何を思うか。光を、音を扱う人たちも、きちんと休めているか。
スケジュールを司って、具体的にまとめていく人たちともよく話せているか。
わたしに、この全ての悩みを相談できる人が周りにいるか。
どこかのセクションで妙なパワーバランスが生まれてはいないか。
それによって作品に変な影響を及ぼしてはいないか。
最近、上手く話せていない気がするのはどうしてか。
舞台上に置かれている物にはどれくらい予算を費やせるのか。物、ひとつひとつを愛せるか。
物に、どういう角度で明かりを当てたのなら、どういうふうに影ができるか。
わたしが作る舞台には季節はあるか。時間は描かれているか。この全てのことが、
わたしにとっては演劇で、わたしにとっての営みで、もっと言うと生きることそれ自体である。
ついこないだ、劇場にて場当たりをしている最中にふいに思ったのだった。
そうだ、演劇のことそれ自体を作品にしてみよう、と。
わたしにとっては、演劇が社会であり、世界である。
そしてわたしは、じつはどの担当でも無いような気がしている。
わたしは明かりを灯せないし、音を鳴らせない。言葉を声にもできない。
スケジュールや予算のことも、何度説明を受けても忘れてしまう。
しかしわたしはこの演劇という社会に、世界にいて、その様子を俯瞰したり、
少し離れた位置から、人が行ったり来たりするのを、観察している。
このわたしの視点、観点を舞台上にて展開させるとしたら。
わたしたちの開演時間へ向けての"ただの準備"を、そこに集まり立ち会う観客はただ眺めるだけなのだけれど、そのとき観客ひとりひとりのどの部分とわたしたちは接続できるだろうか。
マームとジプシー『Curtain Call』

作・演出 藤田貴大
出演:青柳いづみ 石井亮介 渋谷采郁 成田亜佑美 長谷川七虹
日程:2025年5月8日(木)-5月11日(日)
5月8日(木)19:00
5月9日(金)19:00
5月10日(土)14:00/18:00
5月11日(日)14:00
会場:LUMINE0
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5丁目24-55 NEWoMan Shinjuku 5F
<チケット料金/日時指定/整理番号付き/全席自由>
◉早割料金 *枚数限定
一般:5,500円 60歳以上:4,500円 25歳以下:3,500円 18歳以下:無料
*チケット販売期間:2025年2月15日10:00より3月14日23:00まで
◉通常料金
一般:6,000円 60歳以上:5,000円 25歳以下:4,000円 18歳以下:無料(枚数限定)
*発売開始:3月15日10:00
◉当日精算料金
一般: 6,500円 60歳以上:5,500円 25歳以下:4,500円 18歳以下:無料(枚数限定)
*ご予約受付開始:3月23日10:00より
*当日精算でご予約のお客様は、観劇日当日、受付にてチケット料金をご精算ください。