『第75回ベルリン国際映画祭』のフォーラム部門に正式出品される小田香監督最新作『Underground アンダーグラウンド』の公開を記念し、東京・渋谷ユーロスペースにて「小田香特集2025」が2月22日(土)から3月7日(金)まで開催される。
同イベントでは、短編から長編まで、小田香が監督を務めた12作品が上映される。タル・ベーラ監督が激賞した2010年のデビュー作『ノイズが言うには』から、第1回大島渚賞を受賞した長編『セノーテ』、自身の母が働く場所を記録した短編『カラオケ喫茶ボサ』、『Underground アンダーグラウンド』と同じく吉開菜央が「シャドウ(影)」を演じた最新作に繋がる中編『GAMA』まで、15年間のフィルモグラフィーを振り返る。上映期間中の2月24日(月・祝)には、小田香監督の登壇イベントも開催予定。タイムテーブルなどの情報は、『Underground アンダーグラウンド』の公式HPに随時掲載される。




特集上映の開催に寄せて、小田香よりコメントも到着した。
新作長編『Underground アンダーグラウンド』の公開と共に、特集上映をしていただけることになりました。自分自身と家族を撮った映画、サラエボやメキシコで撮った映画、短かったり多少長かったり、ドキュメンタリーと呼ばれたり呼ばれなかったり、なんだか一貫性のないようなフィルモグラフィーに見えますが、身近な葛藤を映画に撮ることを経て、未知の場所をカメラで探求する方向にいったことは、じぶんにとっては自然な流れだったという気がします。
一連の過程のなかで、じぶんが常に考えていたのは、カメラの後ろ(じぶん)とカメラの前(人間、土地、出来事)の関係性を誠実にうつすには、どこにカメラを置いて、どのように撮ればいいのだろうということでした。多くの過ちや不出来のなかで、たまに、なにかうつったかもしれないという瞬間があり、その欠片を集めて編集で接続させてきました。
じぶんの映画制作の動機のひとつに、他者を理解したい、他者から理解されたい、という感情があります。最近は、他者を完全に理解することはないし、家族であれ見ず知らずの人であれ理解できると思うこと自体が不遜だと思うようになりました。それでも、感情は感情として胸にあり、そんな距離感が特集で上映していただく作品のイメージに反映していたらいいなと思っています。
―――小田香
『Underground アンダーグラウンド』は、3月1日(土)より全国公開される。また、ユーロスペースでは、2月15日(土)から21日(金)の1週間限定で、タル・ベーラが福島県内で行った映画制作ワークショップの模様を小田香が記録したドキュメンタリー『FUKUSHIMA with BÉLA TARR』の上映も行われる予定。
『小田香特集2025』

2/22(土)〜3/7(金)【予定】
ユーロスペースにて開催
■上映作品■
[長編]
・『鉱 ARAGANE』68分/2015年/監修:タル・ベーラ
山形国際ドキュメンタリー映画祭2015 アジア千波万波部門特別賞
リスボン国際ドキュメンタリー映画祭2015正式出品
マル・デル・プラタ国際映画祭2015正式出品
台湾国際ドキュメンタリー映画祭2016正式出品
ボスニア・ヘルツェゴビナ、首都サラエボ近郊、100年の歴史あるブレザ炭鉱。地下300メートルには、一筋のヘッドランプの光と闇に蠢く男たち、爆音で鳴り続ける採掘重機と歯車、そしてツルハシの響き。死と隣り合わせのこの場所で、人は何を想い、肉体を酷使するのか。小田は単身カメラを手に地下世界をひたすら見つめる。世界中の映画祭で衝撃を持って迎えられた小田監督の代表作。
・『あの優しさへ』63分/2017年
ライプティヒ国際ドキュメンタリー&アニメーション映画祭2017正式出品
ジャパン・カッツ2018 正式出品
小田の生まれ故郷である日本で撮影した私的な映像とサラエボのフィルムスクールで学んだ3年間の授業の中で撮影した未使用のフッテージを使用し、性の問題を抱える人々、国境を越えての対話、貧しさや労働についてなど、力強いカメラワークとともにドキュメンタリー映画の本質を問うパーソナルな作品。
・『セノーテ』2019年/75分
第1回 大島渚賞受賞
ロッテルダム国際映画祭2020 正式出品
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019正式出品作品
メキシコ、ユカタン半島北部に点在する、セノーテと呼ばれる洞窟内の泉。
セノーテはかつてマヤ文明の時代、唯一の水源であり雨乞いの儀式のために生け贄が捧げられた場所でもあった。現在もマヤにルーツを持つ人々がこの泉の近辺に暮らしている。
現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテをめぐって交錯する、人々の過去と現在の記憶。そこに流れるのは「精霊の声」、「マヤ演劇のセリフテキスト」など、マヤの人たちによって伝えられてきた言葉の数々。カメラは水中と地上を浮遊し、光と闇の魅惑の映像に遠い記憶がこだまする。
[中編]
・『ノイズが言うには』38分/2010年/日本語
なら国際映画祭2011 NARA-wave部門観客賞
夏休みに一時帰国した主人公は、自身が性的少数者であると家族に告白する。告白を受けとめられず拒絶の母、沈黙の父。その反応に主人公は失望するが、家族の協力のもと己の告白についての映画をつくりはじめる。各々が自己を演じ、その言動を追体験するなかで、無きものになりつつあった告白が再び家族の前に提示される。タル・ベーラ監督が激賞し、映画学校film.factory入学のきっかけとなった。
・『GAMA』53分/2023
山形国際ドキュメンタリー映画祭2023 正式出品
沖縄戦で多くの住民が命を落とした自然洞窟「ガマ」の中で、平和の語り部としてガイドを務める男性。その傍らに佇む青い服の女性が、現代と過去の交差を表現する。映画作家・ダンサーの吉開菜央が最新作『Underground アンダーグラウンド』に繋がる、シャドウ(影)という女性を体現し、歴史と記憶に触れる小田監督の新境地が眼前に現れる。
[短編]
・『ひらいてつぼんで』13分/2012年
少女があやとりをしながらバスを待っている。バスは停車する度にひとり、またひとりと乗客を迎え、松明の灯る終着点に辿り着く。京都花背で行われるお盆の火祭り「松上げ」を背景に、彼岸と此岸を少女たちの手が結ぶ。
デビュー作『ノイズが言うには』のあと、小田監督が唯一脚本を書き制作した作品。
・『呼応』19分/2014年 監修:タル・ベーラ
牛飼い、羊、風、あらゆる生きものが等しく在るように感じられる村。死と生はわけられない。メリーゴーランドに乗って、隣人の手をとり踊ろう。film.factoryに参加するために日本からボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボに移った小田はカメラと小さなボスニア語辞典だけもってウモリャニというボスニアの村を記録する。
・『FLASH』25分/2015年
サラエボからザグレブまで行く長距離列車の車窓から見える異国の景色を見ながら、なぜか懐かしい気持ちになり、ふと、じぶんの思い出せる限り一番はじめの記憶はなんだろうという疑問が湧いた。思い出せるようで思い出すことのできない始まりの記憶を巡る列車の旅。
・『色彩論 序章』6分/2017年
ゲーテは自然を愛し、環境の整った実験室で分析された光(学)からは距離をとった。「色彩というのは眼という感覚に対する自然の規則的な現象」だと彼は言う。光と闇が我々の個人史を通り抜け、幾千の淡いとなり、色彩として現れるーー。16mm白黒フィルムで撮影。
・『風の教会』12分/2018年
神戸・六甲にある安藤忠雄建築『風の教会』リニューアルオープンに向けて行われた修復工事を記録。コンクリートを侵食した黴や苔が廃教会となっていた時間の長さを告げる。閉じられていた扉が開かれるとき、止まっていた時間が再び動き出す。
・『Night Cruise』 7分/2019年
大阪の水路を巡る「梅田哲也/hyslom 船・2017」に研究員として参加した際に撮影した素材と、翌年のクルーズ船ツアーで撮影した素材を合わせひとつの作品にした。魅惑的な夜の河に、揺らめく水と光。
・『カラオケ喫茶ボサ』13分/2022
カラオケ喫茶ボサは大阪の郊外にある、歳を重ねたご近所さん達がカラオケしたり休んだりする場所。小田監督は、母が働くその場所で、タイムカプセルに残すように、人々の痕跡やそこに宿る記憶を焼き付ける。
◎作品提供:FieldRain、trixta
◎配給:スリーピン
特集上映のタイムテーブルなどの情報は『Underground アンダーグラウンド』HPに随時掲載していきます
https://underground-film.com/