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¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uとは誰か。実験性とサービス精神を兼ね備えた稀代のDJの肖像

2026.4.9

#MUSIC

photo: Jun Yokoyama

¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U(YOUSUKE YUKIMATSU)というアーティストがいる。クラブミュージックの愛好者にとってはもちろんおなじみのDJだが、4月10日(金)から開催される『コーチェラ(Coachella Valley Music & Arts Festival)』、そして6月に迫る『プリマヴェーラ・サウンド(Primavera Sound Barcelona)』など、海外ビッグフェスのラインナップでその名前をはじめて目にした人も少なくないだろう。

¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$UとはどんなDJなのか。いかにして世界で大活躍するに至ったのか。その音楽の個性、魅力とは。自身もDJとして活動するライター松島広人(NordOst)が徹底解説する。

世界が熱狂した『Boiler Room』と、それに至るキャリア

運命みたいな手垢のつききった言葉はあまり好きではないけれど、そうした偶然が重なることで生じるパワーはやはり凄まじいと思う。いくつも重なった偶然の濁流へと迷わず飛び込み泳ぎ続けた人は、いつしか川を抜け海へ流れ着き、遠くの沖合いへ出ていくことになる。行松さんの現在地はそういう場所なのではないかと思う。

¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U=行松陽介は、いまや世界でもっとも広く知られる日本のDJ、とさえいっても過言ではないはずだ。開催迫る『Coachella 2026』に出演する数少ない日本人アーティストのひとりであり、ブレイクのきっかけとなった『Boiler Room』でのDJセットは公開10日で再生200万回を突破し、現在は1800万回規模に達している。しかしながら、けっして急に現れたニューカマーなどではなく、かねてよりアンダーグラウンドで絶大な支持とたしかな信頼を集めてきたベテラン中のベテランだ。『Boiler Room』はあくまでも火付け役でしかなく、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uはその前夜よりDJとして突出した存在であったことについて、まず改めて記しておきたい。世界は『Boiler Room』の1時間に熱狂したが、その1時間を形成しているのは十数年以上にわたる活動のすべてなのだ。

2008年にクラブへの飛び入り出演でデビューを飾って以降、当時の拠点だった関西のローカルシーンを主戦場にひたすら現場を積み重ね、2010年代にはDJ Nobuによる『FUTURE TERROR』やベルリンの実験 / 電子音楽レーベル「PAN」のジャパンショーケースへ出演、Oneohtrix Point Never、Arcaといったアーティストの来日公演サポートを果たす。さらには、Asian Dope Boysによる長時間インスタレーション / パフォーマンス『TRANCE』への参加や、37歳で臨んだ上海での初海外ギグを経由しながら、国外での活動も着実に広げていき、やがてベルリンの『Berlin Atonal』への出演やロンドンICAでの4時間セットへと接続されていった。

そうした氏の道筋を決定づけたのは2016年7月のこと。脳腫瘍で倒れ2度の摘出手術を受け、それまで並行していた建設作業員の仕事から退き、フルタイムのDJとして活動することを決断して以降、人生で初めてパスポートを取得して海外公演へと参加するようになったという。もっとも、こうしたバックストーリーについてはSNS上のありとあらゆるところで感動秘話としてまとめられているし、当人自身のインタビューでも当時のことについて事細かに話されているので、ここでは簡潔な説明に留めることとする。ストーリーよりも、音楽的な側面に目を向けていきたい。

photo: Jun Yokoyama

審美性とビッグルーム的な高揚感の接続

¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uのプレイスタイルはあえていえばザッピング的な感覚というか、リスナーとしての雑食性が投影された折衷的なものだ。こうしたジャンルレスなDJ感覚はいまや一般的なものに近づいているが、基本的にはグラデーション的な選曲によってダンスフロアを支えるグルーヴ感を成り立たせるのが常だろう。しかし氏はかねてからそうしたフロアマナーに異なる視点を加えてきた。テクノとポップス、四つ打ちとシャッフル、インダストリアルとメロディックをあえて混合させてきた。撹乱ともいえる。こうした横断性はともすれば散発的に感じられるものだが、氏はナシをアリに、当然のことのように常識を塗り替えてきた。その一貫した不確定性は常に魅力的だ。

大阪で育ち、ハードロックやメタルからSonic YouthやThe Prodigyのようなオルタナティブなバンドサウンドへと至り、そしてゼロ年代のミニマル~クリックハウスに行き着いて……という音楽遍歴は、まさに今の¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uのセレクトとも通ずる横断性を感じさせる。そのDJスタイルをただ単に「ジャンルレス」と片付けては説明にならない。それは1人の音楽愛好家、レコードディガーが人生をかけて積み上げた個人史のようなものであり、膨大な知識と現場体験から導き出されたスタイルといえる。¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uの革新性は、そうした概念が一般化する遥か以前から、あらゆる音楽群の異なる側面を抽出してみせた点にあるように思える。

100 gecs以降のハイパーポップを現代のロックとして解釈し、Kornのようなエクストリームバンドに超越性を見いだすこと。あるいは長尺のアンビエントをほぼフルでセットに取り入れてみたり、エッジーな前衛音楽に潜むポップネスを引き出してみたり。氏のDJセットを特別なものにしているのは、過剰さよりもそうした構成の巧みさにあり、だからこそ極端な転調や飛躍的な選曲に人々は圧倒される。魅力の芯にあるのはビッグルームEDM的な高揚感ではなく、それらと対極的だったはずの実験性や審美性を接続したことにあるのではないだろうか。

実験精神とフロアへのサービス精神の両立

そう、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uは一貫して実験精神に満ちた人である。2010年代の主催シリーズ『Zone Unknown』では、KamixloやPalmistry、EndgameやEquiknoxxといった、実験性をキーにダンスホールやレゲトンなどさまざまなリズムワークを独自解釈してきたアーティストを関西に招聘してきており、氏のDJセットには高頻度でいわゆる「Deconstructed Club / Post-Club」(脱構築的なクラブミュージック)に類するサウンドが顔を出す。

氏が2020年にシンガポールのレーベルから発表したミックステープ『Midnight Is Comin’』についての『Pitchfork』評(※)では、「DJには盛り上げ役、ストーリーテラー、歴史家などさまざまな役割があり、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uはこれらすべてを兼ね備えている、シャーマンと戦士とトリックスターを合わせたような存在である」と紹介されている。また、日本やアジア圏のレフトフィールドな音楽家によるトラックが詰め込まれた同作について、アンビエント、ドローン、ノイズといったヒプノティック(催眠的)なアプローチをもって氏の内省的な側面に深く入り込んでいることを指し「最近の記憶の中で最も没入感のあるDJミックスのひとつ」であるとまで評価されている。ビッグルーム的ではなく、実験精神と哲学がやはり氏の真の魅力である、ということなのだろう。

https://pitchfork.com/reviews/albums/yousuke-yukimatsu-midnight-is-comin/

https://open.spotify.com/intl-ja/album/63wLJUSK33kz2E7Y3ophS4

しかし、その実験性は自身の美学の探究活動に終始するわけではなく、常にフロアの側に向けられている。それも¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$UというDJの特異な点だと思う。昨年筆者が実施したclubasiaでのインタビュー(※)にて、氏は「どこに出ても、基本的に自分がやることは変わらない」「とりあえず楽しんでもらうことがまず第一」「いつも一生懸命やるだけ」と、当然のことのように話してくれた。そしてインタビューの直後ステージに向かっていった氏は、セットの終了時間後にも絶えないアンコールの声に何度も応えて続けていた。それが当然のことのように。

※「一生懸命やるだけ」¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U Interview

フロアの観客に満足を与えることを重視しつつも、自分の審美眼の追求も徹底し、それらを別々の仕事として扱わないこと。偏愛とサービス精神を、実験性と大衆性を現場で同時に引き受け続けるのは並大抵のことではない。その上、従来のアンダーグラウンドシーンと現在の活動領域では明らかに客層が異なる。それでも目の前にいる人々の期待に応え続ける。そうした誠実さの積層が、『Coachella』のラインナップに彼を押し上げたと言ってもいい。それはアンダーグラウンドからオーバーグラウンドへ羽ばたいた、という単純な成功譚ではなく、地下で信じられている美学は伝え方次第でどんな場所にも届きうるということを証明する、今も続く終わりのない挑戦と抵抗の一端であるはずだ。

photo: Filip Szymczak

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