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その場にいるだけで知らぬ間に影響を受けている。それが公共アート
渋谷を行き交う人たち(特に日本人)は、街なかの体験型アートに飛び込んでくるのだろうか? その答えは、意外とYESだった。検証後も1時間ほど作品の観察を続けたところ、実にたくさんの通行者が足を止め、実際に音を奏でてみる人も多かった。ただ、それは見たところ20代以下の友達連れ、もしくは親子連れ、外国人観光グループがほとんど。平日の昼下がりだからというのも大きいだろうけれど、いわゆる「大人」、一人で歩いている人は、気になる素振りは見せても誰も体験までは至らなかった(関係者によると、会社員風の中年男性が一人で体験していた、なんて事もあるそうなのでタイミングによるようだ。遭遇できず非常に残念)。
そして、2つの作品間で見知らぬ人同士のデュエットがどれだけ発生していたのかは、傍から見ている分には正直なところ分からなかった。それぞれの作品を奏でる人たちはみんな楽しそうなのだが、意識は自分たちに向いており、グループごとに撮影を済ませたら立ち去っていくこともしばしばだ。

日常において、他人とのセッションは難しい。特にそれが、一人で立つ大人であるほど。これが、この『Duetti』の体験を経て筆者が最も強く感じた思いである。私たちはなんて切ないほどに用心深く、自衛しながら日常を過ごしているんだろうか。スマホから顔を上げ、イヤホンを外して「他者への無関心」を剥ぎ取ってしまえばそこに交流が生まれるかと思いきや、ことはそう単純ではない。次には警戒という壁が立ちはだかるのだ。情報や思惑が乱れ飛ぶ渋谷の路上なのだからそれは必然かもしれないし、自分だって取材モードでなかったら果たしてどれほど他者に手を伸ばせたか、自信は無い……。でも、だからこそ、アートを通じてかすかに心を通わせ合えた実感が光り輝く。
この作品は「誰かとデュエットしてみない?」と道行く人を誘う小さな仕掛けだが、決して交流を達成することだけが意義ではない。「デュエット最高!」「したいけど知らない人は怖い」「素敵な動画が撮れて楽しかった」「なんかうるさいな?」引き起こされるそんな全ての感情や感想が、このアートがここにある意味なのだと思う。

さらに、こんな風に公共空間に設置されたパブリックアートのすごいところは、美術館 / ギャラリーとは違って、アートとの対話を求めている人以外にもジワジワと影響を与えるところだ。『Duetti』の展示期間中に一度も作品を体験しなかったとしても、いつも通る道に謎のアートが現れたこと、笑い声と聖歌隊のような音楽が聞こえてきたこと……それだけで風景の温度や質感が変容し、誰にとっても少ーーーしずつ世界の見え方が変化させられているはずなのだ。
アートは社会を映す鏡。未知数の体験に遭遇したら、まずはノってみる
本作をこの場所に持ってきた仕掛け人の一人である小池浩子氏(株式会社シアターワークショップ劇場プロデュース部門執行役員)からは、想いのこもったこのようなコメントをもらうことができた。
今回のプロジェクトは8年越しに、ようやく実現しました。10年ほど前にモントリオールに住んでいた時に、近所に光って音が出る不思議なブランコがありました(「Musical Swings」というシリーズ作品)。ブランコを通して知らない人とセッションする不思議な仕掛けに夢中になり、帰国してからも、あの作品が渋谷にあったらなぁとよく思い出していました。仕事帰りのちょっとした時間に、観光客なのかも地元の人なのかも知らない誰かと一緒に遊ぶ不思議な仕掛けが、このまちに必要なのではないかと感じたのだと思います。
そして8年前に、今回の主催者である東急さんと共にモントリオールを訪れたときに、作家である「Daily Tous Les Jours」の創設者の一人・ムナと出会い、そこから私たちの「光るブランコを渋谷に持ってこよう作戦」がスタートしました。残念ながら、当時はブランコは渋谷には少し大きく、輸送コストも高いことから断念せざるを得ませんでした。それからコロナもあり、私たちの企みはしばらく間が空いてしまいましたが、今回は『DIG SHIBUYA』というこの作品を展示するのにピッタリのチャンスがあったこと、また、当初ブランコを検討した頃にはなかった『Duetti』が出来ていて、サイズ的にも渋谷にピッタリだったことから展示が決まりました。今回の展示場所も大きなポイントで、多くの方の協力を得て公道扱いの246デッキにインタラクティブアートを設置できたのは非常に画期的なことでした。
公共空間に置いたインタラクティブな遊具と説明すると、ある種の都市機能のようにも聞こえますが、体感としては「現実世界の見え方 / 感じ方が変わるように都市にひそかにかけた魔法」というたとえがピッタリな気がしています。魔法の装置で、都市に暮らす人々の日常を思わずハミングが出ちゃうごきげんな世界に変える、彼女たちの世界。今回、来日してくれたメリッサとチームで話した時にも、「次は小さくてもいいからブランコをやろう」と盛り上がりました。次の機会に向けて、夢は膨らむばかりです。
欧米に比べて、日本ではまだ馴染みが薄いように思われるパブリックアート。「アートは社会を映す鏡」とか「自分自身を映す鏡」だという言葉があるが、まさにパブリックアートとは街中にポンと置かれた(変な形の)鏡なのだと思う。特に存在を気にせず日常生活を送っていても、不意に反射したどこかがキラリと光って見えるかもしれない。覗き込んでみれば、自分って意外とこう見えているんだ……と驚くかもしれない。鏡はただそこにあるだけで、こちらに正解を求めるものではないから、安心して便利に使えばいいのだ。なんせ無料なのだし。
今回、東京で最も雑多と言っても過言ではない渋谷の路上に、期間限定とはいえ『Duetti』のような体験型のアートが設置されたことはものすごくチャレンジングだし、それが行き交う人に与えた影響は計り知れない。例えばもしも今度の週末、いつもの道端でパブリックアートに遭遇したらあなたはどうするだろうか。筆者としては、よっぽど急いでいる時じゃなかったら少しだけ時間を割いて、「なになに?」と関わってみるのをオススメしたい。もしかしたらそこには未知数の、世界の見え方が変わるような瞬間があるかもしれないのだから。

『Hello! Duetti』(ハロー!デュエッティ)

日時:2026年1月23日(金)〜2月27日(金)
※時間帯は、国道246 号横断デッキの開放時間に準じます。
場所:国道246号横断デッキ(渋谷スクランブルスクエアと渋谷ストリームをつなぐデッキ)
主催:Daily Tous Les Jours / 東急株式会社 / 一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント
制作:株式会社シアターワークショップ
協力:ケベック州政府在日事務所 / 株式会社コトブキ
公式 Instagram:https://www.instagram.com/hello_duetti/
DIG SHIBUYA 公式 HP 内『Hello! Duetti』
紹介ページ:https://digshibuya.com/program/2244″