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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

街に偶然の繋がりを生み出す仕掛け。公共アート『Hello!Duetti』体験レポ

2026.2.27

『Hello! Duetti』

#PR #ART

やって来ました、国道246号横断デッキ。かつて東急東横線が走っていた跡地であり、「渋谷ストリーム」と「渋谷スクランブルスクエア」を繋ぐ街の大動脈である。本記事は、この場所に1月23日(金)〜2月27日(金)まで期間限定で開催されている現代アートプロジェクト『Hello! Duetti』(ハロー! デュエッティ)についての調査・実体験レポートだ。渋谷を行き交う人たち(特に日本人)は、果たして街なかの体験型アートに飛び込んでくるのだろうか?

身体を動かし、見知らぬ人と音を奏でる『Duetti(デュエッティ)』

『Duetti(デュエッティ)』とは、回転するベンチ型の作品と、車止めの杭のような作品の2つで構成される体験型のサウンドインスタレーション。アート作品自体の名前は『Duetti』で、その作品を渋谷に設置したよ、というプロジェクト名が『Hello! Duetti』である。それぞれの作品には音楽を鳴らす仕掛けがあり、体験者の動かし方やスピードによって音が変化する。誰かと一緒に2つの作品を奏でることで、その時、その場ならではの即興の二重奏(デュエット)が生まれるという趣向だ。

2つの装置の距離感も絶妙! ほどよく安心感のある間隔を保ちつつ、相手の存在を無視はできない距離である。

手前が『デイドリーマー』、奥が『ボラード』。隣を走るJR線のホームがびっくりするほど近く、体験中はホームで電車待ちする人たちに「何か変なことが起きている」と見せつけるような格好になるのが面白い。ちなみに夜間はデッキ上がほぼ真っ暗になる中、作品のイエローやブルーの光がぼんやりと浮かび上がってかなり幻想的な風景になるらしい。

制作したのは、カナダ・モントリオールを拠点に活動するアート&デザインスタジオ「Daily Tous Les Jours(デイリー・トゥ・レ・ジュール)」。

本作は元々イタリア・ミラノでのイベントの際に制作されたもので、その後モントリオールを経て、今回のアート×テクノロジーイベント『DIG SHIBUYA』に合わせて初来日を果たした。「Daily Tous Les Jours」はこの作品について、人と人を繋ぐアートであり「スピードの速い都市を行き交う人々に、スローでリラックスできるひとときを過ごしてもらえたら、と考えて制作した作品です」と語っている。

「Daily Tous Les Jours」の、ムナ・アンドラオス(左)とメリッサ・モンジア(右)。「Daily Tous Les Jours」は英語・フランス語で「毎日」「日常」「いつも」という意味。 / 提供画像

まずは一人で鳴らしてみました

ベンチ型の『デイドリーマー』は、回転させると台座部分のラインを越えるごとに「ファァ〜〜ン」と何とも言えない聖歌隊のような音が鳴り響く。回転は内蔵の磁気ブレーキで制御されているため、ラインを乗り越える瞬間にはグッと力を込める必要があり、それが自分の意思で音を鳴らしているという感覚につながっていく。「ファ〜〜」「ファーー」「アアア〜」「ホォーー」みたいなイメージで神聖な雰囲気の和音が連なってゆき、やがてぐるりと1回転が達成されると、「ハッ♪ハッ♪ハッ♪ハッ♪」とリズミカルなコーラスが入り始める。

体感としては、最近では危ないからと見かけなくなった、公園の回転遊具のイメージに近い。周囲の景色が回転でとろけて、自分が世界の真ん中にいるような不思議な高揚感に包まれる。筆者も含め、取材中に見かけたほぼ全ての体験者が回転しながら大きく天を仰いでいたのが印象的だった。回っているとなんだかどんどん気持ちよくなってくるのだ、分かる。

ミラノでの『デイドリーマー』展示風景。こんな風に、ベンチは大人3人でも軽々と回転する。 / 提供画像

一方『ボラード』は、杭のまわりを体験者がぐるぐる歩きまわって音を奏でる仕組みだ。足元のラインを超えるたびに「ヴォ〜」「ボー」「ブワー」とベンチの方よりも低い和音が鳴り、こちらも回っていくうちに音の厚みが増えていく。2つの装置には様々な和音が設定されているけれど、どんな風に奏でても、調和の取れたハーモニーとなるように丁寧に計算されているのだという。

ミラノでの『ボラード』展示風景 / 提供画像

それぞれどのように音が奏でられて、どんな気持ちよさがあるのかはわかった。でもこの作品は『Duetti』……デュエットさせてこそである。作品の後ろには「知らない人同士、ふしぎな瞬間を共有してみよう」とのキャッチフレーズが掲げられている。本作では、たまたま通りがかった知らない誰かとの偶発的なセッションが推奨されているのだ。

「STRANGERS NEED STRANGE MOMENTS TOGETHER(知らない人同士、ふしぎな瞬間を共有してみよう)」は作者である「Daily Tous Les Jours」著作のタイトルでもあるそう

さてここで、大きな疑問が湧き上がる。渋谷駅を行き交う日本人たちは、いつもの通り道に現れた謎の現代アートを前にして……果たしてぐるぐる回って音を奏でるものだろうか?

検証:渋谷を行き交う人たちは、体験型アートに飛び込んでくるのか?

というわけで、試してみた。ちなみに筆者はオフィスカジュアルを着用(きちんとした人に見えるよう配慮した)のアラフォー女性、検証は金曜日の午後15時ごろである。

『デイドリーマー』にて演奏中。誰か来ないかな……。

デッキは線路と道路に挟まれているため、横を頻繁に電車が通り過ぎ、足元を緊急車両がサイレンとともに通り抜けていく。それらの爆音に負けないよう、作品から出る聖歌隊のような和音も機材のMAXに近い音量で設定されているという。デッキ中に響く大音量で音を奏でながら、一人じっとベンチで回転を続けてみた。

結果、20分間で4組の見知らぬストレンジャーがやってきた。想像以上に多い! 以下が参加者である。

①観光者らしき海外の男性
②20代と思しき日本のOL風お姉さん2人組
③アメリカから来たという5〜6歳の少年
④とにかく陽気な日本の女子大生風3人組

①観光者らしき海外の男性の場合:デュエット度2%

筆者がベンチで回転していると、最初に『ボラード』で音を奏でに入って来てくれたのは観光客と思しき海外の男性だった、多分。なぜ多分かというと、響く和音に「あっ、誰か来た!」と振り向いた時には、すでに相手は立ち去りつつあったからだ。自分の「待ち構えている感」が出過ぎてしまったからかもしれない、と反省……誰かの意図のなかに飛び込むのって不気味だし、そりゃそうである。次からは、よりさりげなさそうに見える『ボラード』のほうで音を鳴らし、ベンチに誰かが来るのを待ってみることにする。

『ボラード』にて演奏中。よく見ると、音の鳴るラインが均等に配置されていないのがポイント。コレが面白いリズムを生むのだ。

②20代と思しき日本のOL風お姉さん2人組の場合:デュエット度80%

やがて20代と思しき日本のOL風お姉さん2人組が来て、恐る恐るベンチを回し始めた。しかも、2つの作品の音がキレイにハモっていることに気が付くと、「あっ」という顔をしてこちらにはにかんだ笑いを向けてくれた。これだ、これを待っていたのである!

2つの作品でハーモニーを奏でたのはわずかな時間だったけれど、その間だけ、世界がパッと明るくなったような感じがした。何周かして彼女たちが立ち去っていくときには、お互い自然に「ありがとうございました」とお礼の言葉が出て、お互いに(何がだろう……?)と少し笑ってしまった。

③アメリカから来た5〜6歳の少年の場合:デュエット度0(100?)%

引き続き『ボラード』で杭の周りを歩いていると、ハッと気づいた時には後ろに外国人の小さい男の子がついて来ていた。

まさにこんな感じ / 提供画像

少年と追いかけっこのように回るうちに、音も気分も盛り上がってきて、思わず笑い声が上がる。ついには自分から「カモ〜ン!」と声を掛けてベンチのほうへ移動し、彼を乗せてぐるぐるとベンチを回転させた。それじゃデュエットにはならないけれど、なんだかそうしてあげたくなったのだ。筆者の英語力が微妙なせいであまり言葉を交わすことはできなかったが、相手が笑うと自分も嬉しい、という感情を見ず知らずの他人に抱けたことは新鮮な驚きだった。ちなみに調子に乗って回し続けたせいで、翌日は筋肉痛である。

子どもたちは、光って歌って回るベンチがみんな大好き! / 提供画像

④とにかく陽気な日本の女子風3人組の場合:デュエット度120%

続いてやってきた女子大生風の3人組はとにかく楽しそうで、ベンチを回転させながら自分たちも「ワァ〜♪」と歌い出すほどだった。これはかなりオープンマインドな人たちの予感……筆者がそこへ『ボラード』で音を加えてチラッと視線を送ると、3人はすぐに作品の意図をつかんだ様子で、そこから明確なセッションが始まった。

「写真撮ってもいいですか?」と尋ねると、キャ〜! と顔を隠しつつもピースサインしてくれたご機嫌なお姉さんたち

加速する彼女たちに合わせて回って、回って……気が付けば回るベンチと全く同じ速度で走っていた。2つの作品が奏でる和音の厚みは最高潮に達し、デッキにもJR線のホームにも「ワッワッワーーー♪」と祝祭感あふれる音楽が鳴り響く。お互いになんとなく「完成した」感じがしてゆっくり回転を止めると、横を通り過ぎる男性が「いいね!」と声を掛けてくれた。不思議なことに、彼女たちとだけでなく、その時その場に立ち会った全員とセッションができたようなじんわりと温かい感覚が残った。

その場にいるだけで知らぬ間に影響を受けている。それが公共アート

渋谷を行き交う人たち(特に日本人)は、街なかの体験型アートに飛び込んでくるのだろうか? その答えは、意外とYESだった。検証後も1時間ほど作品の観察を続けたところ、実にたくさんの通行者が足を止め、実際に音を奏でてみる人も多かった。ただ、それは見たところ20代以下の友達連れ、もしくは親子連れ、外国人観光グループがほとんど。平日の昼下がりだからというのも大きいだろうけれど、いわゆる「大人」、一人で歩いている人は、気になる素振りは見せても誰も体験までは至らなかった(関係者によると、会社員風の中年男性が一人で体験していた、なんて事もあるそうなのでタイミングによるようだ。遭遇できず非常に残念)。

そして、2つの作品間で見知らぬ人同士のデュエットがどれだけ発生していたのかは、傍から見ている分には正直なところ分からなかった。それぞれの作品を奏でる人たちはみんな楽しそうなのだが、意識は自分たちに向いており、グループごとに撮影を済ませたら立ち去っていくこともしばしばだ。

一組やってくると、連鎖してどんどん人が増えていく

日常において、他人とのセッションは難しい。特にそれが、一人で立つ大人であるほど。これが、この『Duetti』の体験を経て筆者が最も強く感じた思いである。私たちはなんて切ないほどに用心深く、自衛しながら日常を過ごしているんだろうか。スマホから顔を上げ、イヤホンを外して「他者への無関心」を剥ぎ取ってしまえばそこに交流が生まれるかと思いきや、ことはそう単純ではない。次には警戒という壁が立ちはだかるのだ。情報や思惑が乱れ飛ぶ渋谷の路上なのだからそれは必然かもしれないし、自分だって取材モードでなかったら果たしてどれほど他者に手を伸ばせたか、自信は無い……。でも、だからこそ、アートを通じてかすかに心を通わせ合えた実感が光り輝く。

この作品は「誰かとデュエットしてみない?」と道行く人を誘う小さな仕掛けだが、決して交流を達成することだけが意義ではない。「デュエット最高!」「したいけど知らない人は怖い」「素敵な動画が撮れて楽しかった」「なんかうるさいな?」引き起こされるそんな全ての感情や感想が、このアートがここにある意味なのだと思う。

国道246号横断デッキ風景

さらに、こんな風に公共空間に設置されたパブリックアートのすごいところは、美術館 / ギャラリーとは違って、アートとの対話を求めている人以外にもジワジワと影響を与えるところだ。『Duetti』の展示期間中に一度も作品を体験しなかったとしても、いつも通る道に謎のアートが現れたこと、笑い声と聖歌隊のような音楽が聞こえてきたこと……それだけで風景の温度や質感が変容し、誰にとっても少ーーーしずつ世界の見え方が変化させられているはずなのだ。

アートは社会を映す鏡。未知数の体験に遭遇したら、まずはノってみる

本作をこの場所に持ってきた仕掛け人の一人である小池浩子氏(株式会社シアターワークショップ劇場プロデュース部門執行役員)からは、想いのこもったこのようなコメントをもらうことができた。

今回のプロジェクトは8年越しに、ようやく実現しました。10年ほど前にモントリオールに住んでいた時に、近所に光って音が出る不思議なブランコがありました(「Musical Swings」というシリーズ作品)。ブランコを通して知らない人とセッションする不思議な仕掛けに夢中になり、帰国してからも、あの作品が渋谷にあったらなぁとよく思い出していました。仕事帰りのちょっとした時間に、観光客なのかも地元の人なのかも知らない誰かと一緒に遊ぶ不思議な仕掛けが、このまちに必要なのではないかと感じたのだと思います。

そして8年前に、今回の主催者である東急さんと共にモントリオールを訪れたときに、作家である「Daily Tous Les Jours」の創設者の一人・ムナと出会い、そこから私たちの「光るブランコを渋谷に持ってこよう作戦」がスタートしました。残念ながら、当時はブランコは渋谷には少し大きく、輸送コストも高いことから断念せざるを得ませんでした。それからコロナもあり、私たちの企みはしばらく間が空いてしまいましたが、今回は『DIG SHIBUYA』というこの作品を展示するのにピッタリのチャンスがあったこと、また、当初ブランコを検討した頃にはなかった『Duetti』が出来ていて、サイズ的にも渋谷にピッタリだったことから展示が決まりました。今回の展示場所も大きなポイントで、多くの方の協力を得て公道扱いの246デッキにインタラクティブアートを設置できたのは非常に画期的なことでした。

公共空間に置いたインタラクティブな遊具と説明すると、ある種の都市機能のようにも聞こえますが、体感としては「現実世界の見え方 / 感じ方が変わるように都市にひそかにかけた魔法」というたとえがピッタリな気がしています。魔法の装置で、都市に暮らす人々の日常を思わずハミングが出ちゃうごきげんな世界に変える、彼女たちの世界。今回、来日してくれたメリッサとチームで話した時にも、「次は小さくてもいいからブランコをやろう」と盛り上がりました。次の機会に向けて、夢は膨らむばかりです。

欧米に比べて、日本ではまだ馴染みが薄いように思われるパブリックアート。「アートは社会を映す鏡」とか「自分自身を映す鏡」だという言葉があるが、まさにパブリックアートとは街中にポンと置かれた(変な形の)鏡なのだと思う。特に存在を気にせず日常生活を送っていても、不意に反射したどこかがキラリと光って見えるかもしれない。覗き込んでみれば、自分って意外とこう見えているんだ……と驚くかもしれない。鏡はただそこにあるだけで、こちらに正解を求めるものではないから、安心して便利に使えばいいのだ。なんせ無料なのだし。

今回、東京で最も雑多と言っても過言ではない渋谷の路上に、期間限定とはいえ『Duetti』のような体験型のアートが設置されたことはものすごくチャレンジングだし、それが行き交う人に与えた影響は計り知れない。例えばもしも今度の週末、いつもの道端でパブリックアートに遭遇したらあなたはどうするだろうか。筆者としては、よっぽど急いでいる時じゃなかったら少しだけ時間を割いて、「なになに?」と関わってみるのをオススメしたい。もしかしたらそこには未知数の、世界の見え方が変わるような瞬間があるかもしれないのだから。

提供画像

『Hello! Duetti』(ハロー!デュエッティ)

日時:2026年1月23日(金)〜2月27日(金)
※時間帯は、国道246 号横断デッキの開放時間に準じます。
場所:国道246号横断デッキ(渋谷スクランブルスクエアと渋谷ストリームをつなぐデッキ)
主催:Daily Tous Les Jours / 東急株式会社 / 一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント
制作:株式会社シアターワークショップ
協力:ケベック州政府在日事務所 / 株式会社コトブキ
公式 Instagram:https://www.instagram.com/hello_duetti/
DIG SHIBUYA 公式 HP 内『Hello! Duetti』
紹介ページ:https://digshibuya.com/program/2244″

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