INDEX
まずは一人で鳴らしてみました
ベンチ型の『デイドリーマー』は、回転させると台座部分のラインを越えるごとに「ファァ〜〜ン」と何とも言えない聖歌隊のような音が鳴り響く。回転は内蔵の磁気ブレーキで制御されているため、ラインを乗り越える瞬間にはグッと力を込める必要があり、それが自分の意思で音を鳴らしているという感覚につながっていく。「ファ〜〜」「ファーー」「アアア〜」「ホォーー」みたいなイメージで神聖な雰囲気の和音が連なってゆき、やがてぐるりと1回転が達成されると、「ハッ♪ハッ♪ハッ♪ハッ♪」とリズミカルなコーラスが入り始める。
体感としては、最近では危ないからと見かけなくなった、公園の回転遊具のイメージに近い。周囲の景色が回転でとろけて、自分が世界の真ん中にいるような不思議な高揚感に包まれる。筆者も含め、取材中に見かけたほぼ全ての体験者が回転しながら大きく天を仰いでいたのが印象的だった。回っているとなんだかどんどん気持ちよくなってくるのだ、分かる。

一方『ボラード』は、杭のまわりを体験者がぐるぐる歩きまわって音を奏でる仕組みだ。足元のラインを超えるたびに「ヴォ〜」「ボー」「ブワー」とベンチの方よりも低い和音が鳴り、こちらも回っていくうちに音の厚みが増えていく。2つの装置には様々な和音が設定されているけれど、どんな風に奏でても、調和の取れたハーモニーとなるように丁寧に計算されているのだという。

それぞれどのように音が奏でられて、どんな気持ちよさがあるのかはわかった。でもこの作品は『Duetti』……デュエットさせてこそである。作品の後ろには「知らない人同士、ふしぎな瞬間を共有してみよう」とのキャッチフレーズが掲げられている。本作では、たまたま通りがかった知らない誰かとの偶発的なセッションが推奨されているのだ。

さてここで、大きな疑問が湧き上がる。渋谷駅を行き交う日本人たちは、いつもの通り道に現れた謎の現代アートを前にして……果たしてぐるぐる回って音を奏でるものだろうか?