毎年愛知県・蒲郡市で開催されるイベント『森、道、市場』(以下、『森道』)。『森道』は海エリア、遊園地エリアの2箇所に分かれており、観覧車と海と山に囲まれた特別なロケーションの中、毎年5月末の3日間だけ立ち上がるマーケットイベントだ。週末になれば各地で個性豊かなマーケットやフェスが開催されるようになった昨今。新しい音楽や雑貨との出会いは楽しいものだが、一方で「どこか既視感がある」「似たような体験ばかり」と感じてしまうことも少なくない。楽しいはずだったイベントに「飽き」が生まれ、作り手にも参加者にもいわゆる「イベント疲れ」が起きていくことは、避けては通れない道なのかもしれない。
しかし、15回以上開催されてきた『森道』は、回を追うごとに参加者を増やし、新しいエリアが生まれるなど、その熱量を加速させ続けている。なぜこの場所は「飽き」と無縁でいられるのだろうか。2026年は、5月22日(金)、23日(土)、24日(日)に開催されることが発表された『森道』。開催に先駆けて、2025年開催時に参加していた『森道』参加歴3年以上の出店者への取材から、『森道』の運営哲学を紐解き、マンネリ化しないイベントの作り方を探る。
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『森道』が「筋トレのステージ」である理由
イベントを長く続ける上で最大の敵となるのが「マンネリ化」だ。『森道』を訪れると、安定と新鮮は対立するものではなく、共存するものなのだと気付かされる。毎年同じ時期に、同じ場所で、同じ顔ぶれが揃う。いつもの場所に帰ってきた安心感がありながら、そこには必ずや発見が待っている。この安定の中に漂う新鮮な空気は、主催者が強要しているわけではなく、出店者自身がこの場所を「年に一度の発表の場」と捉えていることにある。愛知の雑貨ブランド・幸福館の萩原葉那さんは、『森道』を「筋トレのステージ」と表現する。
萩原(幸福館):無意識的に「『森道』だから新しいものを作らないと」という気持ちになります。『森道』のシーズンになると、Instagramのストーリーズも賑わってくるし、他の出店者さんの様子を見て自分も新しいことをやってみようかな、挑戦してみようかなと刺激をもらうきっかけになっていますね。一年に一回の発表の場としてすごく自分のモチベーションになるので、これからも筋トレのステージとして、ぜひ継続していけたらいいなと思っています。

名古屋を拠点にしながら、((幸福感))をテーマにチープでユーモラスのあるものをデザイン、制作する。

出店者がこれほど前のめりになれるのは、主催者である運営チーム自身が誰よりも「新しく楽しいこと」に飢えているからに他ならない。普通であればリスクを恐れて避けるようなアイデアでも彼らは面白がり、一緒になって実現への道を探ってくれるという。東京から参加しているCat’s ISSUEの太田メグさんは、そんな運営チームの姿勢に信頼を置く。
太田(Cat’s ISSUE):普通なら「ちょっと危ないからやめておこう」となるような話でも、まず話を聞いて、そこに面白さを感じたら一緒にやってみる。その柔軟さと好奇心の強さこそ、『森道』の主催者たちが持っている楽しいことに対する嗅覚だと思います。それを見てきているからこそ、「チャレンジしていこう」という気持ちは持ち続けていますね。それも、真面目に頑張るというよりは、面白い方に無理やりでも転がしていくような、そんな心持ちですね。フェス疲れとかマーケット疲れが起きるのは、毎年同じことを繰り返しているということが理由の一つのような気がしています。

ネコ好きクリエイターと共にネコへの「偏愛」を発信するプロジェクト

主催者が面白がり、出店者が挑戦する。そうして生まれた変化を、来場者もまたポジティブに受け入れている。移動型店舗・TENTOの山本雄平さんは、この「挑戦の連鎖」こそが熱量の正体だと語る。
山本(TENTO):経営とかビジネスのことを本当に考えたら、僕らも『森道』も毎年同じことを同じフォーマットでやる方が絶対にいいんですよ。でも、お客さんもチャレンジすることを許容してくれていると思うので、「去年と違うじゃん」って怒るお客さんはいない。むしろ「今年はこれをやっているんだ」というのをみんな楽しみにしている。「挑戦しても大丈夫」と思える空気があるからこそ、新しいことができるんですよね。僕たちも普段はMAISONETTE Inc.としてそれぞれの店舗で活動しているけど、全店舗が集結して新しいことへ取り組む、貴重な機会なんです。

名古屋でMAISON YWEやTT” a Little Knowledge Storeや、PINQなどの飲食店を運営する、食とクリエイティブの集団MAISONETTE Inc.による移動型企画店舗・TENTO。
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境界線をあえて曖昧に。混沌が当事者意識を育む
効率的な運営を考えた時、エリアを明確に区切り、出店者向けに細かくルールを設けるというのがよくある方法だろう。しかし『森道』は、管理をしすぎないことによって偶発的なにぎわいを生み出している。高円寺のカレー店・ネグラの大澤思朗さんは、会場全体に漂う「境界線のなさ」に魅力を感じると言う。
大澤(ネグラ):『森道』って、エリアがあるけど、その境界線がない感じがするんです。普通、イベントはエリアがきっぱり分かれているじゃないですか。『森道』だとそれぞれの出店者が作る賑わいの場、盛り場と盛り場が重なって、グラデーションが起きていますよね。サイズ感が小さいものからめちゃくちゃ大きいものまであって、大中小が重なりあっている。それがすごく魅力的で。出店している人のコンセプトを見ても、気持ちがすごく伝わる場作りをしているなと思います。

日本各地、異国の厨房で料理を経験し、東京・高円寺で「即興 / 越境」をテーマに架空の庶民料理を作っている。

余白のある会場構成は、出店者のクリエイティビティを刺激する。「ここなら何をやってみてもいいんだ」という解放感は、予想外のコンテンツを産む土壌となる。名古屋のカルチャーを発信するWEBマガジン「LIVERARY」による別冊的なお店・LIVERARY Extraの武部敬俊さんは、その余白を存分にプレイしている一人だ。
武部(LIVERARY Extra):僕は基本的に、『森道』で誰もやってないことをやるというのをテーマにしてますね。既にあることと同じことをやっても意味ないんで、みんながやってないことの隙間を探してとにかくやっています。例えば今年は合コンを開催しましたけど、合コンなんて『森道』で誰もやらないじゃないですか。他にも過去にバンドマンやラッパーを混ぜたラップバトルを行ったり、出店ブースとステージを合体させた、巨大な鉄の要塞みたいなエリアを砂浜につくったり。もちろん需要と供給の中でマッチするものをやっているけど、そういうのばかりですね。

名古屋を中心に東海地方のカルチャートピックを紹介しているWebマガジンLIVERARYが運営する、神出鬼没な期間限定ショップ。「変てこなコンビニ」をテーマに、平山昌尚、大橋裕之らと制作したオリジナルグッズを販売している。

この自由な空気感は、歴史ある老舗の酒蔵のインスピレーションにもなっている。1711年創業の酒蔵・仁井田本家の内藤高行さんは、ここで得た空気感を参考に、伝統を届ける自社のイベントを発展させているという。
内藤(仁井田本家):仁井田本家では年に一回、蔵を開放するイベントを行っているのですが、その場作りの雰囲気は『森道』から多くのヒントをもらっています。イベントの出店者も、『森道』で出会った方々にお願いしていて、「この人たちなら安心して任せられる」と思える信頼感があるんです。おかげで、うちのイベント自体もかなり進化してきたと思っています。『森道』のような場所で、日本酒を若い人たちに手に取ってもらえる機会があることはすごく貴重だと感じていますし、こういう自由な空気の中だからこそ、伝統的なものの魅力もしっかりと伝わる気がしています。

福島県郡山市1711年創業の日本酒を醸造する酒蔵。「日本の田んぼを守る酒蔵になる」を使命として、日本酒だけでなく米を使ったさまざま食品の開発をしている。