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カニエ・ウェストの影響と現状への葛藤
松島:Yeに関しては、しばらく扱いが難しい感じですよね。キャンセルカルチャーについては議論もあるとは思いますが、ナチズムの肯定みたいなことに関しては、後から取り消したとしてもちょっと……。僕はもう無理かもなと思って、あまり活動をチェックしなくなってしまいました。
キムラ:もちろんナチスについての発言とか、White Lives Matterとか、そういうのは問題外ですけれども。ただ、ジャスティン・ビーバーが今年アルバムを出したじゃないですか。その作り方っていうのが、広いスタジオみたいなのを借りて、ひたすらセッションして曲を作るのを、ストリームでずっと配信してるんですよ。あれはまさに2016年くらいのカニエがやってたことと似ている感じがして。
松島:『The Life of Pablo』ぐらいの時期ですね。
キムラ:そうそう、ジャスティン・ビーバーはわかりやすくカニエ・ウェストの影響を受けている。カニエが是か否かはさておき、カニエ的なアプローチは、ファッションの面も含め、2020年代の現在に多分に影響を及ぼしているし、これから先も広がっていくんじゃないかなというのが僕の見立てです。ダメなところはダメなんだけど、ポップカルチャー全体のシーンとして見るときに、そこのピースを外しちゃうと……。
松島:それは間違いないんですよね。『Yeezus』以降の動き方は、絶対に無視できない要素ではある分、すごく残念だなと……。
風間:カニエ本人は、今年はけっこう静かだったですよね。いまおっしゃっていたのは基本的に2023〜24年ぐらいで、巨大な騒動が立て続けにあって、毀誉褒貶の激しい人というイメージになったと思うんですけど。今年は、パートナーに変な格好をさせた件がありましたが、他にはそこまでビビッドな動きはなかったかなと思います。
キムラ:『Bully』というアルバムを出すか出さないかみたいな感じで、いま待たされてる状態なんですけれど、リード曲を聴くと、『The Life of Pablo』とか『ye』の頃のようにな情的で、最近のマッチョな感じともまた違う感じがするので、その変化にも注目しています。なにぶん今年出した曲は、歌詞があまりにも……。
松島:紹介もできない感じですよね。ここまで失墜したところから、「やっぱりすごかったんだ」という感じを取り戻してくれるのかどうかも正直……。実際、いろんなファクターを抜きにしても『VULTURES』以降の作品がそんなに良いかと言われたら、ピンとこない感じもあるし。このまま、音楽的な遺産を食いつぶして生きるアーティストにはなってほしくないという気持ちもありますが。あとは、メンタルヘルス的な問題もあるし、あそこまで大きくなってしまった存在を止められる人もいないわけで……彼について肯定は絶対できないですけど、ああいう巨人にしかわからない悲しみもあるんだろうなとは思います。
キムラ:そうですね。良い部分も悪い部分も含めて、単純なレイヤーで語れないですよね。なんだけど、3年後くらいに見ると、たしかにカニエは早かったなと思うことが多い。
松島:たしかに多いんです。けれど、本当にこれからもそう思わせてくれるのかな? という点でも、僕はそう思えない部分があります。