2025年10月27日(月)~11月5日(水)にかけて開催された、『第38回東京国際映画祭』のクロージング作品としての先行上映が話題を呼んだ『ハムネット』(日本公開2026年4月10日・金)。同作が、「第83回ゴールデングローブ賞」において、『罪人たち』『フランケンシュタイン』(共に2025年)といった競合を抑えて、作品賞(ドラマ部門)、主演女優賞(ドラマ部門)の合計2部門を受賞した。
近年、その影響力は以前ほど絶大ではないとはいえ、アカデミー賞前哨戦の1つとされるゴールデングローブ賞を受賞したことで、すでにアカデミー賞ノミネートへの期待の声が多く上がっていた。そして迎えた1月22日(木)に発表された「第98回アカデミー賞」において、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞、美術賞、作曲賞、衣装デザイン賞、キャスティング賞の8部門でノミネートを果たした。衣装デザイン賞では、『国宝』(2025年)と争うことに。

『ハムネット』が描くのは、シェイクスピアの四大悲劇の一つであり、近年も『果てしなきスカーレット』(2025年)の下敷きになるなど今なお多大な影響を与え続ける名作『ハムレット』、その誕生の裏にあった物語だ。シェイクスピアの長男ハムネットを襲った早すぎる死という悲劇と、その前後に横たわる家族の物語が紡がれる。
同作は、厳密な史実の再現というよりも、北アイルランドの作家マギー・オファーレルによる2020年発表の同名小説を原作としている。『ノマドランド』(2020年)『エターナルズ』(2021年)などで知られ、現在は『バフィー~恋する十字架』の続編ドラマを制作中のクロエ・ジャオが、ファンタジーテイストで大胆にアレンジしてみせた。

ただし、ウィリアム・シェイクスピアの視点から描いた『ハムレット』の誕生秘話ではなく、妻アグネス・シェイクスピアの視点で俯瞰的に描かれているのが特徴的で、芸術家の影で家庭を守った女性の物語としての側面がありつつも、それだけではなく、ウィリアムの苦悩と子ども対する想いのすれ違いや、劇作家でありながらも実生活では愛を言葉や態度で表現できない不器用さを浮き彫りにしていく。
貧しいラテン語教師のウィリアムが劇作家となっていく様子を応援しながら、それは同時に夫が家を離れることを意味しているという、複雑な立場で葛藤する妻アグネスの視点は常に繊細で、それを『ロスト・ドーター』(2021年)で「第94回アカデミー賞」において助演女優賞にノミネートされ、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2022年)でも高い評価をジェシー・バックリーが見事に演じきっているのだから、ゴールデングローブ賞を受賞しても全く不思議なことではないし、アカデミー賞主演女優賞も夢ではないだろう。

そこにクロエ・ジャオらしい演出というべきか、スピリチュアルな自然との調和をアグネスの心情とリンクさせながら描いていく。極論を言えば、自己満足や親のエゴと捉えられるかもしれないが、魂が浄化されたような着地点には言葉を失うはずだ。
『ハムネット』
監督:クロエ・ジャオ
脚本:クロエ・ジャオ、マギー・オファーレル
製作:スティーヴン・スピルバーグ、サム・メンデス
出演:ジェシー・バックリー、ポール・メスカル、エミリー・ワトソン、ジョー・アルウィンほか
2025年/イギリス/1.78:1/126分/カラー/英語/5.1ch
原題:HAMNET
日本語字幕翻訳:風間綾平
日本語字幕監修:河合祥一郎
映倫区分:G
配給:パルコ ユニバーサル映画
©2025 FOCUS FEATURES LLC.
2026年4月10日(金)公開